わくわく題詠鳩の会会報 39   ホーム
鳩ノ会会報39
兼題 後の更衣・芭蕉忌・闇汁
逆さまにゆかぬ年月よ。老いはえのがれぬわざなり。
(源氏物語・若菜下)
【後の更衣・秋の更衣】旧暦九月一日(現在の十月半ば)。「今日(九月一日)より九日に至るまで、武家ならびに地下良賤、各々袷を着る」(『日次紀事』貞享2)。
◎定まらぬ世相や後の衣更 大江 月子 せめて我が身を暖かく包まん。
◎帰国してせかるる後の更衣 三島 菊枝 旅愁にひたるゆとりなきまま。
◎遠き日も引き出す後の更衣 根本 文子 「遠き日を」。
○傷跡の疼きて後の更衣 金井  巧 季節はまず古傷に来る。
○虫食ひを見つけて後の更衣 市川 千年 後の更衣ならではの現実。
○優勝セールでそろへし後の更衣 西野 由美 当世風で面白し。
○ポケットに何やら後の更衣 小出 富子 誰にも心当たりあり。
 退院の姉あり後の更衣 吉田いろは 「あり」再考。
 愛慕濃き古着や後の衣更 三木 喜美 素直なれども。
 旅支度あはせて後の更衣 水野千寿子 素直なれども。
 母に似たるすがたや後の更衣 堀口 希望 素直なれども。
 秋の宵綿入れ取り出し祖母思ふ 平岡 佳子 素直なれども。
 さりげなく終へたる後の更衣 安居 正浩 主題曖昧なり。
 通勤の人見て後の衣更 岡田 光生 主題曖昧なり。
 旅立ちに衣替へして赤い羽根 松村  實 主題曖昧なり。
 繕ひて後の更衣手縫い帯 谷  美雪 主題曖昧なり。
 お下がりを半衿替えて後の更衣 礒部 和子 主題曖昧なり。
 老母と窓開け後の更衣 尾崎喜美子 主題曖昧なり。
 暑さ過ぎ後の更衣のとなり 尾崎 弘三 主題曖昧なり。
 水のやうな風来て後の更衣 梅田ひろし 主題曖昧なり。
 ときめきも忍ばせ秋の更衣 清水さち子 主題曖昧なり。
 今朝冷えてつひに後の更衣 柴田  憲 主題曖昧なり。
 風荒さぶ後の更衣赤系に 天野喜代子 主題曖昧なり。「暖色に」。
 うす紅は春待つ心や後更衣 五十嵐信代 主題曖昧なり。
 学らんの腕まくり上げ更衣 天野 さら 主題曖昧なり。
 鳶頭鯔背に後の衣更え ひぐらし 主題曖昧。「鯔背」はイナセ。
【芭蕉忌・時雨忌・桃青忌・翁忌】旧暦十月十二日。墓所は大津市の義仲寺。
◎時雨忌や酒酌み交しゐて孤独  安居 正浩 余情豊かなり。
◎芭蕉忌や久しく逢えぬ師を想ふ 堀 眞智子 「逢はぬ」。
○翁忌や雪をかぶれる月の山 松村  實 趣向弱けれど。
○時雨忌や越後の空は薄ずみて 三木 喜美 趣向弱けれど。
○時雨忌や子の暗記する蛙の句  根本 文子 趣向弱けれど。
○老いし身のやはり淋しき時雨の忌 清水さち子 率直なり。
○翁忌のうき雲映す小名木川 堀口 希望 素直なれど。
○みちのくの時雨にあひぬ翁の忌 三島 菊枝 素直なれど。
○芭蕉忌や奥州道中旅半ば 五十嵐信代 素直なれど。
○翁忌の初めて仰ぐ伊賀の空 梅田ひろし 素直なれど。
○クリックで枯野をめぐる芭蕉の忌 谷  美雪 当世風なり。
○後世に何残せるや桃青忌 金井  巧 素直なれど。
○しぐれ忌や日暮れていまだ遠き道 ひぐらし 観念的なれど。
○芭蕉忌やひねもす歩く明日香村 天野 さら なぜ明日香村か。
○奥研の旅の半ばの芭蕉の忌  水野千寿子 「みちのくの旅の」。
 白雲やテラスの宇宙翁の忌 大江 月子 二箇所で切れちゃダメ。
 しぐれ忌に義仲寺後に一句会 礒部 和子 「時雨忌」「義仲寺」近し。
 翁忌や人の流れのつづきをり 尾崎喜美子 主題曖昧なり。
 芭蕉忌や足踏みをして早一年 尾崎 弘三 主題曖昧なり。
 桃青忌硯取り出し一句書く 平岡 佳子 素直なれど
 芭蕉忌やよく分からぬが読んでみむ 西野 由美 主題曖昧なり。
 時雨忌や若き支考がしのび泣き 吉田いろは 下五伝わらず。
 跡慕ひかさねも走る翁の日 市川 千年 空想に終始せり。
 芭蕉忌や人は跡切れず香ゆらり 小出 富子 中七・下五難解。
 芭蕉忌に義母の介護を妻娘 岡田 光生 主題曖昧なり。
 芭蕉忌やひねもす傘を手放せず 柴田  憲 主題曖昧なり。
 時雨忌や虫の音絶えて夜も長し 天野喜代子 「虫」「夜長」秋季なり。
 芭蕉忌やノーベル賞は沸きかへり 有村 南人 主題曖昧なり。
【闇汁・闇夜汁・闇鍋】親しき者が、灯りを消した暗闇で持ち寄りの食品を鍋に煮て、手探りで食べる。あくまで座興ゆえ、座がしらける趣向は禁物。なお、古典に例句を知らず。
◎臆病も無頼もまざる闇夜汁 吉田いろは 「臆病も無頼も並ぶ」。
◎闇汁のおほよそ当る灯のかすか 三島 菊枝 「灯のゆらぎ」。
◎闇汁や炭のあかりの頼りなさ 有村 南人 「頼りなし」。
◎闇汁や好まざるもののみ掬ふ 金井  巧 技量あらわなれども。
○闇汁の闇恐ろしき仲間なり 安居 正浩 大袈裟なれど面白し。
○猥褻歌もぶち込み寮の闇夜汁 堀口 希望 懐かしきかな。
○交叉する孤独連帯闇夜汁 ひぐらし 大袈裟なれど面白し。
○旅先の闇汁怖し酒旨し 礒部 和子 古き友に会う旅か。
 給食は闇汁ばかり今にして 柴田  憲 戦中派の記憶ならん。
 封を切るときめきに似て闇汁や 三木 喜美 句末に「や」は避けよ。
 闇汁や君の目玉は我のもの 大江 月子 主題曖昧なり。
 君がため闇汁入れしハートにんじん 西野 由美 主題曖昧なり。
 闇汁の闇の面面確かめて 根本 文子 題意を逸れたり。
 闇汁や二次会またも盛り上がり 松村  實 題意を逸れたり。
 戦時中闇汁の具も無かりけり 岡田 光生 題意を逸れたり。
 闇夜汁伯母の訃報の届きけり 市川 千年 題意を逸れたり。
 闇汁の旨み引き出すエコ野菜 天野 さら 題意を逸れたり。
 わいわいと宝さがしの闇の汁 天野喜代子 説明を避けたし。
 箸ふるるあやなきものや闇夜汁 五十嵐信代 説明を避けたし。
 闇汁や塊取り出し怖ぢけづく 平岡 佳子 素直なれど。
 驚かす気配感じる闇汁よ 小出 富子 素直なれど。
 闇汁会企みありてひとりごつ 水野千寿子 素直なれど。
 のつけから挙がる嬌声闇汁会 梅田ひろし 素直なれど。
 闇汁や鼻クンクン葱プンプン 谷  美雪 素直なれど。
 おもむろに箸持ちかへて盲汁 清水さち子 素直なれど。
 闇汁や恐る恐ると手をのばす 尾崎喜美子 素直なれど。
 悪童にもどり闇汁おほさわぎ 尾崎 弘三 素直なれど。
海紅切絵図
帯留を真赤に後の更衣 海 紅
好きな道迷はず歩め翁の忌
闇汁やひとつの恋を忘るべく
 
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