【後の更衣・秋の更衣】旧暦九月一日(現在の十月半ば)。「今日(九月一日)より九日に至るまで、武家ならびに地下良賤、各々袷を着る」(『日次紀事』貞享2)。 |
◎定まらぬ世相や後の衣更 |
大江 月子 |
せめて我が身を暖かく包まん。 |
◎帰国してせかるる後の更衣 |
三島 菊枝 |
旅愁にひたるゆとりなきまま。 |
◎遠き日も引き出す後の更衣 |
根本 文子 |
「遠き日を」。 |
○傷跡の疼きて後の更衣 |
金井 巧 |
季節はまず古傷に来る。 |
○虫食ひを見つけて後の更衣 |
市川 千年 |
後の更衣ならではの現実。 |
○優勝セールでそろへし後の更衣 |
西野 由美 |
当世風で面白し。 |
○ポケットに何やら後の更衣 |
小出 富子 |
誰にも心当たりあり。 |
退院の姉あり後の更衣 |
吉田いろは |
「あり」再考。 |
愛慕濃き古着や後の衣更 |
三木 喜美 |
素直なれども。 |
旅支度あはせて後の更衣 |
水野千寿子 |
素直なれども。 |
母に似たるすがたや後の更衣 |
堀口 希望 |
素直なれども。 |
秋の宵綿入れ取り出し祖母思ふ |
平岡 佳子 |
素直なれども。 |
さりげなく終へたる後の更衣 |
安居 正浩 |
主題曖昧なり。 |
通勤の人見て後の衣更 |
岡田 光生 |
主題曖昧なり。 |
旅立ちに衣替へして赤い羽根 |
松村 實 |
主題曖昧なり。 |
繕ひて後の更衣手縫い帯 |
谷 美雪 |
主題曖昧なり。 |
お下がりを半衿替えて後の更衣 |
礒部 和子 |
主題曖昧なり。 |
老母と窓開け後の更衣 |
尾崎喜美子 |
主題曖昧なり。 |
暑さ過ぎ後の更衣のとなり |
尾崎 弘三 |
主題曖昧なり。 |
水のやうな風来て後の更衣 |
梅田ひろし |
主題曖昧なり。 |
ときめきも忍ばせ秋の更衣 |
清水さち子 |
主題曖昧なり。 |
今朝冷えてつひに後の更衣 |
柴田 憲 |
主題曖昧なり。 |
風荒さぶ後の更衣赤系に |
天野喜代子 |
主題曖昧なり。「暖色に」。 |
うす紅は春待つ心や後更衣 |
五十嵐信代 |
主題曖昧なり。 |
学らんの腕まくり上げ更衣 |
天野 さら |
主題曖昧なり。 |
鳶頭鯔背に後の衣更え |
ひぐらし |
主題曖昧。「鯔背」はイナセ。 |
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【芭蕉忌・時雨忌・桃青忌・翁忌】旧暦十月十二日。墓所は大津市の義仲寺。 |
◎時雨忌や酒酌み交しゐて孤独 |
安居 正浩 |
余情豊かなり。 |
◎芭蕉忌や久しく逢えぬ師を想ふ |
堀 眞智子 |
「逢はぬ」。 |
○翁忌や雪をかぶれる月の山 |
松村 實 |
趣向弱けれど。 |
○時雨忌や越後の空は薄ずみて |
三木 喜美 |
趣向弱けれど。 |
○時雨忌や子の暗記する蛙の句 |
根本 文子 |
趣向弱けれど。 |
○老いし身のやはり淋しき時雨の忌 |
清水さち子 |
率直なり。 |
○翁忌のうき雲映す小名木川 |
堀口 希望 |
素直なれど。 |
○みちのくの時雨にあひぬ翁の忌 |
三島 菊枝 |
素直なれど。 |
○芭蕉忌や奥州道中旅半ば |
五十嵐信代 |
素直なれど。 |
○翁忌の初めて仰ぐ伊賀の空 |
梅田ひろし |
素直なれど。 |
○クリックで枯野をめぐる芭蕉の忌 |
谷 美雪 |
当世風なり。 |
○後世に何残せるや桃青忌 |
金井 巧 |
素直なれど。 |
○しぐれ忌や日暮れていまだ遠き道 |
ひぐらし |
観念的なれど。 |
○芭蕉忌やひねもす歩く明日香村 |
天野 さら |
なぜ明日香村か。 |
○奥研の旅の半ばの芭蕉の忌 |
水野千寿子 |
「みちのくの旅の」。 |
白雲やテラスの宇宙翁の忌 |
大江 月子 |
二箇所で切れちゃダメ。 |
しぐれ忌に義仲寺後に一句会 |
礒部 和子 |
「時雨忌」「義仲寺」近し。 |
翁忌や人の流れのつづきをり |
尾崎喜美子 |
主題曖昧なり。 |
芭蕉忌や足踏みをして早一年 |
尾崎 弘三 |
主題曖昧なり。 |
桃青忌硯取り出し一句書く |
平岡 佳子 |
素直なれど |
芭蕉忌やよく分からぬが読んでみむ |
西野 由美 |
主題曖昧なり。 |
時雨忌や若き支考がしのび泣き |
吉田いろは |
下五伝わらず。 |
跡慕ひかさねも走る翁の日 |
市川 千年 |
空想に終始せり。 |
芭蕉忌や人は跡切れず香ゆらり |
小出 富子 |
中七・下五難解。 |
芭蕉忌に義母の介護を妻娘 |
岡田 光生 |
主題曖昧なり。 |
芭蕉忌やひねもす傘を手放せず |
柴田 憲 |
主題曖昧なり。 |
時雨忌や虫の音絶えて夜も長し |
天野喜代子 |
「虫」「夜長」秋季なり。 |
芭蕉忌やノーベル賞は沸きかへり |
有村 南人 |
主題曖昧なり。 |
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【闇汁・闇夜汁・闇鍋】親しき者が、灯りを消した暗闇で持ち寄りの食品を鍋に煮て、手探りで食べる。あくまで座興ゆえ、座がしらける趣向は禁物。なお、古典に例句を知らず。 |
◎臆病も無頼もまざる闇夜汁 |
吉田いろは |
「臆病も無頼も並ぶ」。 |
◎闇汁のおほよそ当る灯のかすか |
三島 菊枝 |
「灯のゆらぎ」。 |
◎闇汁や炭のあかりの頼りなさ |
有村 南人 |
「頼りなし」。 |
◎闇汁や好まざるもののみ掬ふ |
金井 巧 |
技量あらわなれども。 |
○闇汁の闇恐ろしき仲間なり |
安居 正浩 |
大袈裟なれど面白し。 |
○猥褻歌もぶち込み寮の闇夜汁 |
堀口 希望 |
懐かしきかな。 |
○交叉する孤独連帯闇夜汁 |
ひぐらし |
大袈裟なれど面白し。 |
○旅先の闇汁怖し酒旨し |
礒部 和子 |
古き友に会う旅か。 |
給食は闇汁ばかり今にして |
柴田 憲 |
戦中派の記憶ならん。 |
封を切るときめきに似て闇汁や |
三木 喜美 |
句末に「や」は避けよ。 |
闇汁や君の目玉は我のもの |
大江 月子 |
主題曖昧なり。 |
君がため闇汁入れしハートにんじん |
西野 由美 |
主題曖昧なり。 |
闇汁の闇の面面確かめて |
根本 文子 |
題意を逸れたり。 |
闇汁や二次会またも盛り上がり |
松村 實 |
題意を逸れたり。 |
戦時中闇汁の具も無かりけり |
岡田 光生 |
題意を逸れたり。 |
闇夜汁伯母の訃報の届きけり |
市川 千年 |
題意を逸れたり。 |
闇汁の旨み引き出すエコ野菜 |
天野 さら |
題意を逸れたり。 |
わいわいと宝さがしの闇の汁 |
天野喜代子 |
説明を避けたし。 |
箸ふるるあやなきものや闇夜汁 |
五十嵐信代 |
説明を避けたし。 |
闇汁や塊取り出し怖ぢけづく |
平岡 佳子 |
素直なれど。 |
驚かす気配感じる闇汁よ |
小出 富子 |
素直なれど。 |
闇汁会企みありてひとりごつ |
水野千寿子 |
素直なれど。 |
のつけから挙がる嬌声闇汁会 |
梅田ひろし |
素直なれど。 |
闇汁や鼻クンクン葱プンプン |
谷 美雪 |
素直なれど。 |
おもむろに箸持ちかへて盲汁 |
清水さち子 |
素直なれど。 |
闇汁や恐る恐ると手をのばす |
尾崎喜美子 |
素直なれど。 |
悪童にもどり闇汁おほさわぎ |
尾崎 弘三 |
素直なれど。 |
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海紅切絵図 |
帯留を真赤に後の更衣 |
海 紅 |
好きな道迷はず歩め翁の忌 |
同 |
闇汁やひとつの恋を忘るべく |
同 |
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