【炎昼】炎暑。晩夏の燃えるような暑い日。近世までなら、暑き日・大暑・極暑で済んだ季題。
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◎手拭ひも帽子も被りただ炎暑 |
清水さち子 |
情素直で品のよき |
◎杖おきて炎暑の空を仰ぎけり |
三島 菊枝 |
景情素直で品のよき |
◎炎昼の遠くの林白く揺れ |
尾崎喜美子 |
景情素直で品のよき。 |
◎炎昼へ出るためにする一呼吸 |
安居 正浩 |
景情素直で品のよき。 |
◎炎暑来るまた常備薬増えし身に |
金井 巧 |
自画像なるべし。 |
○連結器響く停車場炎暑かな |
ひぐらし |
古き景色なれども。 |
○炎昼の箒目美しき古参道 |
根本 文子 |
古き景色なれども。 |
○球追ひし子等に炎昼かぶさりし |
小出 富子 |
古き景色なれども。 |
○炎昼や法被の似合ふ男衆 |
三木 喜美 |
古き景色なれども。 |
○粘液の喉元とほる炎暑かな |
水野千寿子 |
素直な描写。 |
○炎昼に黒い傘さし流行りもの |
大江 月子 |
「傘さす」と切りたし。 |
○炎昼や黙し納める骨の壺 |
吉田いろは |
「炎昼の」 |
○炎昼や大観覧車眩みたり |
柴田 憲 |
「眩み」はクラミ。 |
○炎昼の野に風は無く音もなし |
尾崎 弘三 |
「野は」 |
○歯噛みして炎暑の坂を登りけり |
梅田ひろし |
上五に描写の力あり。 |
○飛鳥路の聞く人もなし炎暑かな |
青柳 光江 |
「人もなき」 |
○炎昼や父のマラリア夢になほ |
谷地元瑛子 |
小さきころの記憶忘れ難し。 |
○六道の辻に人なし京炎暑 |
松村 實 |
古き景色なれども。 |
○炎昼や小遣握り子は走る |
市川 千年 |
コンビニにでも走るか。 |
○顔面の汗目に沁みて炎暑かな |
天野喜代子 |
汗にも季あり。 |
○炎昼や黒々と立つ地獄門 |
堀口 希望 |
古き景色なれども。 |
○地蔵堂に錠さされたる炎暑かな |
天野 さら |
古き景色なれども。 |
○炎熱の砂浜ふめず跳び帰る |
西野 由美 |
「砂浜を踏み」という案もあり。 |
○雑穀飯炎暑の日々を乗り切らん |
礒部 和子 |
一定の景情あり。 |
見られない南方蝶か炎暑の木 |
櫻木 とみ |
「めずらしき」 |
噴きあがる水や炎暑の公園や |
五十嵐信代 |
噴水も季あり。 |
炎昼や母の墓石に岩清水 |
椎名美知子 |
岩清水も季あり。 |
炎昼に日陰を選ぶウォーキング |
岡田 光生 |
日陰も季あり。 |
電柱の影に逃げこむ暑さかな |
中村 緑 |
日陰も季あり。 |
犬も我も陰から陰へ炎暑かな |
谷 美雪 |
日陰も季あり。 |
炎昼は水まく手元に小さき虹 |
中村美智子 |
虹も水まくも季あり。 |
炎暑でも勤労奉仕の田の草取り |
平岡 佳子 |
趣向弱し。 |
炎昼や仁王もげんなり浅草寺 |
千葉ちちろ |
趣向弱し。 |
炎暑ギラギラリ髄まで溶かされる |
有村 南人 |
趣向弱し。 |
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【心太】トコロテンを心太と書く理由で納得できるものに出合ったことがない。日本に入ってきた古代まで遡らねばわからないか。なお、子供のころ、一本箸で食べるのが作法と教わった。
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◎心太酸つぱかつたよ幼き日 |
平岡 佳子 |
すなおな追懐。 |
◎旨きこと山の茶店の心太 |
三木 喜美 |
すなおな追懐。 |
◎銀ブラの果てに一息心太 |
尾崎喜美子 |
どこかで誰もが見た景色。 |
◎心太柴又の雨避けながら |
梅田ひろし |
どこかで誰もが見た景色。 |
◎いつになく優しき母の心太 |
小出 富子 |
どこかで誰もが見た景色。 |
○碧眼のシスターふたり心太 |
堀口 希望 |
いつか見てみたい景色。 |
○甘味屋か心太ならつきあふよ |
有村 南人 |
どこかで言った記憶。 |
○懸垂は二回がやつと心太 |
市川 千年 |
自画像なるべし。 |
○木漏れ日を掬ひてをりし心太 |
根本 文子 |
巧むべからず。 |
○心太夫婦来し方語りつつ |
清水さち子 |
古き景色なれども。 |
○心太幼なじみの訃報聞く |
金井 巧 |
古き景色なれども。 |
○船宿の軋む桟橋心太 |
ひぐらし |
古き景色なれども。 |
○心太磯の香ほのかに立ちまよひ |
水野千寿子 |
古き景色なれども。 |
○母あれば縁側で食ぶ心太 |
中村 緑 |
仮定か既定か判然せず。 |
老い猫に食べるとのぞけてところてん |
大江 月子 |
難解。あるいは誤記あるか。 |
川掃除異国の子らに心太 |
吉田いろは |
「子らと」という案もあり。 |
心太観音像より経一巻 |
天野 さら |
取り合わせ難解。 |
ひがし西酢味蜜味心太 |
谷 美雪 |
説明に終わった。 |
懸樋竹心太流して手掴みし |
中村美智子 |
説明に終わった。 |
酢にむせて冷や水乞ふや心太 |
五十嵐信代 |
説明に終わった。 |
心太待ち望んだ日かつてあり |
椎名美知子 |
何を待ち望んだか不明。 |
ところてんつるりと母の声透けり |
青柳 光江 |
なぜ声が透けたのか。 |
のど走る爽気身に満つ心太 |
三島 菊枝 |
趣向弱し。 |
ゆらゆらと喉過ぎてゆく心太 |
安居 正浩 |
趣向弱し。 |
心太キャンプの夜店大盛況 |
岡田 光生 |
趣向弱し。 |
押しだされ否応なしやところてん |
柴田 憲 |
趣向弱し。 |
大利根の川風来たりところてん |
千葉ちちろ |
趣向弱し。 |
磯風に心太く食ふ浜辺かな |
天野喜代子 |
趣向弱し。 |
心太酔の胃の腑が目をさます |
礒部 和子 |
趣向弱し。 |
誘ひあひ塾帰りらし心太 |
櫻木 とみ |
趣向弱し。 |
縁台を子ら占領すところてん |
松村 實 |
趣向弱し。 |
磯の香をのどで味わふ心太 |
尾崎 弘三 |
趣向弱し。 |
歌舞伎はね喉に冷たしところてん |
西野 由美 |
趣向弱し。 |
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【優曇華】クサカゲロウ(草蜻蛉)の卵の異称。優曇は祥瑞(吉兆)の意の梵語。親鸞は「かなしきかなや道俗の良時吉日えらばしめ天神地祇をあがめつつ卜筮祭祀をつとめとす」(『三帖和讃』)と人間の弱さを悲しむ。 |
◎優曇華や病みて機嫌の悪しき妻 |
梅田ひろし |
季題と人事よく映発せり。 |
◎優曇華や隅の電球切れしまま |
金井 巧 |
「切れてをり」 |
◎優曇華や娘はバレリーナになると言ふ |
吉田いろは |
「子」でよろし。 |
○混沌の世に優曇華の花探す |
尾崎 弘三 |
「花咲きぬ」 |
○優曇華の開花のやうな恋したき |
平岡 佳子 |
やや大袈裟なれど。 |
○優曇華や猿を聞く人夕静寂 |
ひぐらし |
「夕静寂」を捨てよ。 |
○優曇華は胸に咲きをり学びをり |
根本 文子 |
心の花である。 |
○文机に優曇華ペンで弄ぶ |
大江 月子 |
「ペンを」という案もあり。 |
○うどんげによき旅立ちの兆しあり |
三島 菊枝 |
「よき旅立ちと思ふなり」 |
○優曇華や主不在の化粧台 |
市川 千年 |
「主不在」固し。 |
○かくれんぼ優曇華怖し阿弥陀堂 |
礒部 和子 |
一定の景情あり。 |
○優曇華や未来といふものありし日も |
清水さち子 |
一定の情あり。 |
○優曇華や子供の図鑑取り出だす |
尾崎喜美子 |
一定の景情あり。 |
○優曇華や寺院の梁の黒光 |
中村 緑 |
一定の景情あり。 |
病床の母の瞳の先優曇華の花 |
椎名美知子 |
音数整えたい。 |
優曇華やこれも造化の神のわざ |
堀口 希望 |
造化はほぼ神と同義。 |
優曇華や古家と共に取り壊し |
水野千寿子 |
「古家なれば」 |
優曇華や少年ケニヤは蔵の中 |
安居 正浩 |
少年ケニヤに『』が必要。 |
うどんげの葉陰を枕にだらけ猫 |
中村美智子 |
「だらけ猫」似合わず。 |
優曇華やもう合へぬ人一人ゐて |
小出 富子 |
「逢」。優曇華に似合わず。 |
優曇華や特養に入り留居の屋根 |
櫻木 とみ |
略語は避けたい。 |
優曇華や経読み父の七回忌 |
千葉ちちろ |
「経読み」捨てよ。 |
優曇華や母の忌日に集ふ顔 |
岡田 光生 |
「顔」捨てよ。 |
優曇華の苔の花かや怪しけれ |
柴田 憲 |
「苔の花かや」捨てよ。 |
優曇華や羽美しく透き通る |
天野 さら |
中七、下五いずれか捨てよ。 |
優曇華を楊貴妃と摘む夢の中 |
谷 美雪 |
「夢の中」捨てよ。 |
優曇華の意味とつとつとくにことば |
西野 由美 |
「くにことば」捨てよ。 |
山小屋のランプ優曇華からみつく |
青柳 光江 |
「からみつく」捨てよ。 |
古寺の壁にうどんげ影残す |
天野喜代子 |
「影残す」捨てよ。 |
優曇華や僧の掃く音つづきをり |
松村 實 |
「つづきをり」捨てよ。 |
優曇華や生家は既に跡も無く |
三木 喜美 |
「既に跡も」捨てよ。 |
優曇華ありしや残照の我が生家 |
五十嵐信代 |
「ありしや」を捨てよ。 |
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海紅切絵図 |
東京は炎暑みちのくまた炎暑 |
海 紅 |
心太胡坐をかけば男前 |
同 |
吉凶のある人の世と優曇華と |
同 |
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