【早春】初春。立春から二月末日ころまで。浅春の情と重なり合う。いずれも明治以降の季題。 |
◎早春の子の履き出づる親の靴 |
大原 芳村 |
暮らしのまことが見ゆ。 |
◎早春の波を掴みて手漕ぎの艪 |
梅田ひろし |
描写の手本。「手漕ぎ」佳品。 |
◎確定申告を終えて早春旅支度 |
礒部 和子 |
字余りを気にせずともよい。 |
○早春の野へとペダルを夜勤あけ |
松村 實 |
こういう一こまはある。 |
○早春の風と光と新妻と |
谷 美雪 |
美しすぎるけれど。 |
○早春の雲うつすらとほぐれだす |
根本 文子 |
「うつすらと」捨てるか。 |
○早春の山神いまだ夢の中 |
天野 さら |
目覚めを詠めばなおよき。 |
○早春の筑波の峯はやはらかし |
尾崎喜美子 |
あたりまえに言うも腕前。 |
○早春賦口ずさみつつペダル踏む |
三木 喜美 |
平明だが確かな景色。 |
○早春やのろのろのろと庭仕事 |
園田 靖子 |
中七くどいが実感あり。 |
○早春の湖面ひかりのバレー団 |
金井 巧 |
「早春」の必然性疑問。 |
○早春の日に透く鳥の羽真白 |
三島 菊枝 |
「早春」の必然性疑問。 |
○早春の息吹小さき芽のありて |
小出 富子 |
「早春」の必然性疑問。 |
早春や草点々と名は知らず |
柴田 憲 |
「早春」の必然性疑問。 |
早春やけさ産まれたとメールあり |
西野 由美 |
「早春」の必然性疑問。 |
早春の鼻息荒き炊飯器 |
安居 正浩 |
「早春」の必然性疑問。 |
早春や並ぶグラスに海の色 |
吉田いろは |
「早春」の必然性疑問。 |
早春の階段にゐる似顔絵師 |
市川 千年 |
「早春」の必然性疑問。 |
早春の出で湯の烟朝の雨 |
五十嵐信代 |
「早春」の必然性疑問。 |
早春や三寒四温身にしみる |
石川三千代 |
「早春」の必然性疑問。 |
早春や和紙の如くの雲描く |
中村 緑 |
描くのは誰か。 |
早春の布染め流し少女素手 |
櫻木 とみ |
「少女素手」固し。 |
早春を姿で伝へる雲の色 |
尾崎 弘三 |
言いたきは姿か色か。 |
早春に小さきつぼみ見つけたり |
織田 嘉子 |
「早春」か「つぼみ」にしぼる。 |
早春の堰に小鮒の抗へり |
ひぐらし |
「抗へり」は凝りすぎとも。 |
早春にめだかの目覚めを待つ河原 |
中村美智子 |
「河原」まで言わずともよし。 |
梅林の茶屋の甘酒春浅し |
天野喜代子 |
「梅林」はいらないね。 |
早春や群れより離るセーラー服 |
後藤 祥子 |
なにゆえ離るるや。 |
修二会 |
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早春の僧松明に華やげり |
水野千寿子 |
「華やぐ」難解。 |
早春の動く気配のエネルギー |
岡田 光生 |
「エネルギー」難解。 |
春淡しうしろすがたの飛行船 |
大江 月子 |
「うしろすがた」難解。 |
早春の野良広き遠景摂れり |
竹内 林書 |
「摂れり」難解。 |
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【涅槃】涅槃会。涅槃寺。寝釈迦。釈尊入滅の日(陰暦二月十五日)に報恩のために行われる法会。涅槃西風は彼岸前後の風で天象ゆえ涅槃(宗教)とは分けたい。連歌のころからの季の詞。 |
◎尼去つて川音近き涅槃軸 |
櫻木 とみ |
涅槃会の後なり。 |
○涅槃図のやうにかこみて棺の母 |
根本 文子 |
「囲まれ」か。 |
○子らのこゑ外に明るし涅槃像 |
松村 實 |
涅槃像のうつりあり。 |
○静寂の中に吾ゐて涅槃像 |
三木 喜美 |
涅槃像のうつりあり。 |
○涅槃図の涙見るためにじり寄る |
安居 正浩 |
「にじり寄る」饒舌。 |
○涅槃会やトレイに並ぶパンダパン |
大江 月子 |
下五冒険なれど。 |
○涅槃図の傍へに吾も加へてむ |
三島 菊枝 |
「加はらん」。 |
○涅槃会や素直な良い子になりまする |
谷 美雪 |
集える子らならん。 |
このしみは誰の涙ぞ涅槃絵図 |
金井 巧 |
古し。 |
涅槃会や一瞬高き僧の声 |
小出 富子 |
古し。 |
説教僧朱扇指しゐる涅槃絵 |
柴田 憲 |
古し。 |
正座せる身を固くして涅槃絵図 |
梅田ひろし |
上五中七描きすぎたり。 |
涅槃図に動かぬ人の肩の揺れ |
尾崎喜美子 |
中七下五難解。 |
今日涅槃会正座して経を写す |
竹内 林書 |
「今日」不要なり。 |
ねはん図を話し園児に菓子くばる |
西野 由美 |
「園児」不要なり。 |
涅槃会の問ひかけしもの薄明かり |
水野千寿子 |
「薄明かり」難解。 |
細き眼に慈悲があふれる涅槃像 |
織田 嘉子 |
「細き眼は慈悲の心よ」。 |
ものわすれぐちひとりごと涅槃西風 |
ひぐらし |
悲しすぎる也。 |
回廊を影も歩みぬ涅槃寺 |
大原 芳村 |
中七の効力疑問。 |
涅槃の日うい子生れし文届く |
後藤 祥子 |
涅槃の必然性疑問。 |
回し珠数涅槃図囲み音はねる |
天野喜代子 |
数珠くりのことか。 |
涅槃図のささやきかける堂の内 |
尾崎 弘三 |
誰がささやくや。 |
香煙沁み袈裟も朧の涅槃会 |
中村美智子 |
説明に終わった。 |
仰向けに巨象も嘆く涅槃の図 |
市川 千年 |
説明に終わった。 |
白象が涅槃の尊師に寄り添いぬ |
五十嵐信代 |
説明に終わった。 |
涅槃図の動物たちも泣いてゐる |
天野 さら |
説明に終わった。 |
涅槃図や病む身穏やか合掌す |
中村 緑 |
説明に終わった。 |
福祉日々涅槃の境地まず一歩 |
石川三千代 |
涅槃の本意を逸れる。 |
一周忌に集まる人の涅槃かな |
岡田 光生 |
涅槃の本意を逸れる。 |
六十で逝く人送る涅槃かな |
吉田いろは |
涅槃の本意を逸れる。 |
涅槃会や老いという語の重たさよ |
礒部 和子 |
涅槃の本意を逸れる。 |
涅槃西風体調いかがの電話あり |
園田 靖子 |
涅槃の本意を逸れる。 |
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【農具市】春秋にあるが、春が盛んだった。時代の推移で変化するが、種物・植木・農具が主だが、農家の必要なあらゆる家庭用具が並んだ。近代以降の季題。 |
◎真つ新な大臼でんと農具市 |
梅田ひろし |
「まつさら」で詩の姿に。 |
◎産直の売場にちょこつと農具市 |
中村美智子 |
「ちよこつと」で詩の姿に。 |
○陸奥に幟たなびく農具市 |
市川 千年 |
「陸奥」の趣向褒貶あるか。 |
○農具市まずはぐるりと一回り |
天野 さら |
あたりまえを叙して情あり。 |
○農具市今年の夢をととのえる |
西野 由美 |
「ととのへる」は稚拙だが。 |
○鎌買うて何やら楽し農具市 |
吉田いろは |
あたりまえを叙して情あり。 |
○刃こばれの鎌を持参で農具市 |
礒部 和子 |
あたりまえを叙して情あり。 |
○居眠りも店番のうち農具市 |
三木 喜美 |
かかる景もあるべし。 |
○荒縄で鎌束ねあり農具市 |
大江 月子 |
かかる景もあるべし。 |
箕を探し祖母と疲れし農具市 |
根本 文子 |
かかる景もあるべし。 |
農具市トラクターは欲しけれど |
大原 芳村 |
かかる景もあるべし。 |
農具市野菜つき出す売り手かな |
中村 緑 |
かかる景もあるべし。 |
農具市妻丹念に品定め |
金井 巧 |
かかる景もあるべし。 |
光るものみな光らせて農具市 |
安居 正浩 |
かかる景もあるべし。 |
動力機すみつこに鍬など農具市 |
柴田 憲 |
かかる景もあるべし。 |
跡取りを願ひつれきし農具市 |
櫻木 とみ |
かかる景もあるべし。 |
作柄も話題となりて農具市 |
織田 嘉子 |
かかる景もあるべし。 |
農具市やつと見つけた大熊手 |
谷 美雪 |
かかる景もあるべし。 |
農具市見知らぬ人に教へ乞ふ |
後藤 祥子 |
かかる景もあるべし。 |
野良仕事そのままにして農具市 |
岡田 光生 |
中七再考。 |
退職し栄光さらば農具市 |
石川三千代 |
中七再考。 |
鋤鍬のまばらなりける農具市 |
三島 菊枝 |
中七再考。 |
農具市話はずみし男ども |
松村 實 |
描写の輪郭弱し。 |
農具市幼き頃の納屋の中 |
尾崎喜美子 |
「幼きころの懐しき」でよい。 |
なに作る迷ひ迷ひて農具市 |
尾崎 弘三 |
作る迷いは農具とは別なり。 |
農具市の鋤でネギ植える |
竹内 林書 |
「農具市に得たる鋤なり」。 |
おばあの背負籠新らし農具市 |
五十嵐信代 |
人物の輪郭がよく見えず。 |
髭面も脂歯も笑ふ農具市 |
ひぐらし |
「脂歯」を知らず。乞教示。 |
ためらいのセカンドステージ農具市 |
水野千寿子 |
転職、退職後の景か。 |
ほめられし花壇を鍬で耕しぬ |
園田 靖子 |
農具市の本意を逸れる。 |
農具市鎮守の杜のいじめつこ |
小出 富子 |
農具市の本意を逸れる。 |
農具市幻となり輸入国 |
天野喜代子 |
事実誤認なるらん。 |
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海紅切絵図 |
塵ひとつある早春の廊下かな |
海 紅 |
西行に一瞬見ゆる寝釈迦かな |
同 |
大梯子残して農具市終る |
同 |
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