わくわく題詠鳩の会会報 34   ホーム
鳩ノ会会報34
兼題 漱石忌・もんぺ・門松
近うて遠きもの、…はらから・親族の中。
鞍馬の九十九折といふ道。
十二月の晦日の日、正月の朔日の日のほど。
(清少納言・枕草子・一六六)
【漱石忌】十二月九日。
◎なんとなく猫に目をやる漱石忌 小出 富子 「なんとなく」が生きている。
◎漱石忌胃の痛きまでもの思ふ 梅田ひろし 中七が漱石の磁場に通う。
◎漱石忌ケータイ小説など増えて 三木 喜美 近代文学の終焉と言う人あり。
◎辞書繰れば昔日のわれ漱石忌 金井  巧 文学で生きると思ったことも。
◎パンにジャム塗りて漱石忌とおもふ 堀口 希望 近代を身近から切り取った。
○海外へ猫も杓子も漱石忌 松村  實 漱石とその時代に始まる。
○枯野抄取り出してみる漱石忌 根本 文子 芭蕉に仮託の漱石終焉記。
○休講の文字風に舞ふ漱石忌 ひぐらし 休講掲示。「風に舞ふ」再考。
○猫のひげしかつめらしく漱石忌 織田 嘉子 そこに漱石の自画像をみた。
○尻尾立て猫に意思あり漱石忌 米田かずみ 次第に漱石の顔に見ゆる。
○世に憂ふこと数多あり漱石忌 堀 眞智子 生涯かけて則天去私に至る。
○漱石忌行き着き難し雑司が谷 尾崎喜美子 めったに出かけないので。
○一行で足りる遺言漱石忌 吉田いろは 遺言の一節でも出せばなお可。
○『坊ちゃん』の正義感恋し漱石忌 水野千寿子 「恋ふ」。
○逢ふも手紙別れも手紙漱石忌 安居 正浩 人生を丁寧に生きた時代なり。
○硝子戸の外雀くる漱石忌 大江 月子 類題の漱石作品に遊ぶ。
○硝子戸の中覗きたや漱石忌 谷  美雪 同題の漱石作品に遊ぶ。
○三四郎池畔に修す漱石忌 三島 菊枝 同題の漱石作品に遊ぶ。
○猫ゆるり山房歩く漱石忌 椎名美知子 同題の漱石作品に遊ぶ。
 弟と久々に会ひ漱石忌 岡田 光生 ともに文学青年であった。
 漱石忌黙祷終えて句会かな 礒部 和子 追善句会なり。「一句会」。
 漱石忌庭の小石の光りあい 櫻木 とみ なぜ光るや。
 カアカアと烏鴉も啼漱石忌 竹内 林書 鴉の効果危うい。
 天に則ひ部屋かたづける漱石忌 西野 由美 やや大袈裟か。
 漱石忌隣の猫に愛想する 五十嵐信代 うがち過ぎか。
 本を読み本を抱き寝の漱石忌 尾崎 弘三 うがち過ぎか。
 我輩を乗せる眼差し漱石忌 市川 千年 何に乗せるのか。
 漱石を愛せし母逝く漱石忌に 天野 さら 「母の忌日は漱石忌」。
 文豪には程遠きこと漱石忌 大原 芳村 誰のことか。
 漱石忌小説読みて薬飲み 中村美智子 「薬飲み」の効果危うし。
 よみがへりゆく仏性はの句漱石忌 柴田  憲 上五を捨てるべし。
 赤門を抜けて耳鼻科の漱石忌 岡村紀代子 「耳鼻科の」難解。
【もんぺ】裁着(たつつけ)。袴の一種で、農村の仕事着から普段着として普及。近代の季題。
◎尻大き絣もんぺの母憶ふ 梅田ひろし 人の世の一切が見ゆ。
◎もんぺいや母に苦労をかけし悔い 金井  巧 人の世の一切が見ゆ。
◎繕ひて母のもんぺをはきにけり 五十嵐信代 暮らしのまことが見ゆ。
◎姑のもんぺ似合ひてこまめなり 堀 眞智子 よき嫁得たるかな。
◎炭住の空高々ともんぺ干す ひぐらし 「空高々」大袈裟なれど。
○母のひざモンペ絣の優しき香 西野 由美 「優しき」捨てる勇気を。
○色あせし卒業写真皆もんぺ 三島 菊枝 素直で美しき。
○時代移りもんぺ姿もおしゃれ着に 織田 嘉子 素直なり。
○もんぺはいて母系の腰の並びたる 市川 千年 祝いの厨ごとなどの景か。
○アルバムのもんぺの母を陽にかざす 尾崎喜美子 「陽にかざす」捨つべし。
○もんぺいや言はずしまひの恋ありて 吉田いろは よき時代なりき。
○夢に母もんぺ姿の若かりし 安居 正浩 息子の一真実が見ゆ。
 母若しもんぺに火熨斗あてゐたる 堀口 希望 火熨斗はヒノシ。アイロン。
 桶担ぐもんぺの母よ元教師 根本 文子 「桶」「元」が伝わらず。
 太り肉隠しもんぺは働きもん 水野千寿子 「太り肉」熟さぬ言葉。
 戦後より畑仕事のもんぺ服 岡田 光生 「戦後より」の効果危うし。
 円に掃くもんぺ姿の古寺の僧 櫻木 とみ もんぺが活きていない。
 唐鍬で返る土塊れもんぺ受け 尾崎 弘三 「もんぺ受け」熟さず。
 もんぺ穿く風の心地すふくらはぎ 大江 月子 確かな記憶なれど説明。
 戦火逃る母の着物でモンペかな 礒部 和子 確かな記憶なれど説明。
 もんぺ穿き畑打つ母に「ただいま」と 天野 さら 確かな記憶なれど説明。
 人絹のもんぺ冷たきふくらはぎ 小出 富子 確かな記憶なれど説明。
 畑作の祖母のもんぺの藍の色 中村  緑 確かな記憶なれど説明。
 もんぺ穿き防空頭巾壕の中 谷  美雪 説明なり。
 柴焼べるもんぺの母の座り胼胝 大原 芳村 説明なり。
 落葉焚くもんぺの尼の火照り頬 椎名美知子 「落葉焚き」の句なり。
 庭を掃く花柄もんぺ暖かく 中村美智子 「暖かし」の句なり。
 ウォーキング絣もんぺの片結び 岡村紀代子 「片結び」捨つべし。
 母もんぺ似合わぬと父先逝きて 米田かずみ 「先逝きて」捨つべし。
 もんぺ地も今やゆかしき古布として 三木 喜美 「今や」捨つべし。
 庭はくやもんぺの僧のみづみづし 松村  實 「みづみづし」捨つべし。
 信号待ち手を振る君はもんぺにピアス 後藤 祥子 説明なり。
 昭和はや女はもんぺのみの過去 柴田  憲 下五難解。
 一面の菜の花つむもんぺ老婆 竹内 林書 感動の焦点を一つにしたい。
【門松】松飾。竹飾。新年に神を祭る場を示す松。戸口や門前に立てる。歳神の来臨する依代。古くは、柊をさし、注連縄を張り渡す節分と同じ習俗。天野さら氏より〈子供の頃、門松にも膾を箸で挟んであげていた。それは年用意同様、男の役目。兄が母の枕元でお雑煮の味を見てもらう姿などもはっきり覚えている〉と便り。
◎息災と知れる隣家の松飾 ひぐらし しばらく気がかりだった。
◎門松や古稀の祝ひの保険証 礒部 和子 取り合わせ面白く、情もあり。
◎門松や銭湯今日はほこらしげ 中村  緑 いつもと違い堂々としている。
◎門松を小さくさげてたばこ店 大江 月子 中七が「たばこ店」に似合う。
○門松の羽ばたくやうな社かな 市川 千年 「羽ばたく」は新鮮。
○門松や小さくあれど大手門 松村  實 門松の場所やや曖昧。
○門松やショールームも華やぎて 米田かずみ 「は華やげる」。
○姿よし波崎の松で松飾り 谷  美雪 「波崎の松の」。
○門松や来意整へ門を入る 大原 芳村 句意は分明なれど。
○門松やキャッシュロビーの早やも混み 梅田ひろし 句意は分明なれど
○門松の切つ先に神ためらはむ 安居 正浩 門松の本意を逸れたれど。
○門松は裏山の松鶴を折る 根本 文子 「折る」捨つべし。
○松飾り城下名残りの地名かな 金井  巧 「かな」は重し。
 老翁の持ち来り松門飾る 後藤 祥子 「持ち来たる」。
 門松に家族の願ひ表れて 岡田 光生 素直なれども…。
 門松や老いも一時若やげり 堀 眞智子 素直なれども…。
 門松や佃の路地の一穢なき 堀口 希望 「佃の路地」の意図難解。
 よく笑ふ講師に習ひ松飾 吉田いろは なにゆえに笑うのか。
 門松の切目鋭く露流る 櫻木 とみ 感動の焦点曖昧なり。
 門松を見つけて温し母の家 尾崎喜美子 「見つけて温し」捨つべし。
 粛々と据える門松はしゃぐ子ら 水野千寿子 「粛々と据える」捨つべし。
 門松の消えて久しき菓子老舗 三木 喜美 「久しき」捨つべし。
 団地とて窓柵に結ふ松飾り 西野 由美 説明なり。
 門松や青々として太き竹 柴田  憲 説明なり。
 門松をリースに変える新時代 尾崎 弘三 説明なり。
 門松にそっと霧吹き一仕事 小出 富子 説明なり。
 隣より小さめに門松たてにけり 五十嵐信代 なにゆえ小さめなるや。
 門松になます供へし父と兄 天野 さら 確かな記憶なれど説明なり。
 小さきながら門松一対母守り 椎名美知子 確かな記憶なれど説明なり。
 庭下駄の緒の新しき松飾 岡村紀代子 取り合わせ難解。
 門松を半紙に包みどんど焼き 中村美智子 どんど焼きの句になった。
 母の喪に門松もなき日暮かな 三島 菊枝 服喪の句になった。
 門松を飾れぬ年は寂しけり 織田 嘉子 「寂しかりけり」とせねば。
 門松や稀有に見たる世像かな 竹内 林書 用語不安定。
海紅切絵図
漱石忌誰の過去にも清がゐて 海 紅
もんぺ脱ぐ三面鏡を一瞥し
住居兼工場一棟松飾る
 
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