わくわく題詠鳩の会会報 33   ホーム
鳩ノ会会報33
兼題 なめこ・をとり・木の葉髪
秘すれば花なり。秘せずは花なるべからず。
(世阿弥・風姿花伝・第七)
【なめこ】滑子。マツタケ科の茸の一。ブナの枯木・切り株などに群生。近代に認定された季題。
◎帰国せし子にお茶漬けとなめこ汁 金井  巧 人の世の一切が見える気がする。
◎箸先でころころ遊ぶなめこかな 小出 富子 「箸先で」で詩に。
◎湯治客採れたばかりのなめこ炊く 有村 南人 「湯治客」で詩に。
○大粒のなめこ光りて道の駅 三木 喜美 「大粒」で詩に。
○こんもりとなめこの傘の背比べ 谷  美雪 初五「押しあひて」ではいかが。
○道の駅花盛るやうになめこざる 五十嵐信代 「花盛るやうに」が発見。
○道の駅たづきのなめこ山盛りに 根本 文子 この収入をあてにしているのだ。
○天然のなめこ売る声野趣帯びて 市川 千年 「野趣帯びて」が発見。
○親離れせぬ子と今年もなめこ汁 天野 さら 「今年も」は要らぬ気がする。
○到来の心も温しなめこ汁 三島 菊枝 素直で心地よき。
○朝御飯のなめこ味噌汁母の味 竹内 林書 素直で心地よき。
○みちのくの山湯の宿のなめこ汁 松村  實 素直で心地よき。
○山男なめこ土産にやってきた 水野千寿子 素直で心地よき。
○みちのくの女は無口なめこ汁 梅田ひろし 「みちのく」と「無口」古し。
○上京の母の訛となめこ汁 礒部 和子 「訛」と「なめこ汁」やや古し。
○湯治場に話し込みゐる滑子売り 堀口 希望 「話し込みゐる」やや古し。
 内職の手間代うれしなめこ汁 吉田いろは やや少なくなかろうか。
 なめこ食べすこし世渡りうまくなる 安居 正浩 なめらかという意の滑稽化か。
 大本教霧深き里のなめこ汁 平岡 佳子 大本教という事情を離れたい。
 産休に大家さんからなめこ汁 岡田 光生 滑子汁になにか意味があるか。
 森深し滑子は笠を広げ終ふ 大江 月子 「終ふ」の意図難解。
 村人の秘めたる山やなめこ狩る 尾崎喜美子 「秘めたる山」というは重し。
 手酌酒なめこつるつと輝きぬ 西野 由美 「輝きぬ」は重し。
 なめこ汁書かれたのぼり風に揺れ 織田 嘉子 説明に終わった。
 山車誘導交通係になめこ汁 櫻木 とみ 説明に終わった。
 味噌の香に湯気立ちのぼるなめこ汁 天野喜代子 説明に終わった。
 ふうふうといきふきかけてなめこじる 尾崎 弘三 説明に終わった。
 豆腐売る声遠ざかりなめこ汁 中村  緑 説明に終わった。
 遠き日の山小屋の暖なめこ汁 椎名美知子 懐旧に終わった。
 旅土産なめこ汁飲み講釈す 米田かずみ 「講釈」が抽象的。
 病癒え喉に滑らかなめこ汁 堀 眞智子 「滑らか」を捨てたい。
 なめこ汁吹きつつ一日の始まりぬ 清水さち子 説明に終わった。
 鍋の底そろり掬ふやなめこ汁 植田よしお 説明に終わった。
 大鍋に火のとろとろと滑子汁 大原 芳村 説明に終わった。
 なめこ汁ほんわか湯気にこ娘の笑顔 石川三千代 説明に終わった。
 なめこ缶香りゆらめき霜の朝 中村美智子 「霜の朝」を捨てたい。
 独り住みなめこ解けぬ赤い椀 後藤 祥子 独と、溶けない、には情あり。
【をとり(囮)】狩猟で、姿や鳴き声で仲間をおびき寄せる鳥獣。雁・鴨・ツグミ・千鳥他。瞼を縫い合わせて盲目にしたりもした。
◎少年に秘密の場ありをとり籠 水野千寿子 思い当たる人少なからず。
◎生涯ををとりに生きし美声かな 金井  巧 「生涯を」とは優し。
◎隠居逝き囮のつぐみ放ちけり 堀口 希望 狩猟目的の囮ではなかった。
◎透きとほるをとりの声や山日和 松村  實 平和な山村なるらん。
○あさましや鳥が鳥呼ぶ囮とは 天野 さら 一気に言い下して秀逸。
○囮てふ字に切なさの籠もりゐる 根本 文子 たしかに哀しい文字なり。
○少年の顔に戻りてをとり籠 三木 喜美 無邪気は時に残酷なり。
○童心にかへり仕掛ける囮かな 織田 嘉子 童心とは失われし執着なり。
○山空へ朗々と鳴く囮かな 梅田ひろし 「朗々と」とは哀し。
○山の子のをとり巧みにかけにけり 市川 千年 素直にて心地よし。
○ひとり鳴く囮の歌のむなしさよ 尾崎 弘三 素直にて心地よし。
○ばあばへの囮は二才孫の声 中村美智子 わかるが、少し気の毒なり。
○囮籠下げて小屋には誰もゐず 大原 芳村 おそろしき景なり。
○おとりといふ鳥の目を避け空を見る 椎名美知子 鳥の目は悲しんでいたのだ。
○録音のをとり樹間に響きゐる 西野 由美 こんなこともあるのだろう。
○呼べば来る手乗りとなりしをとり鳥 櫻木 とみ 「鳥」は不要だろう。
○今はもう馴染みとなりし囮かな 尾崎喜美子 馴染むゆえの哀れも漂う。
○囮籠淋しき人の知恵なりき 平岡 佳子 「囮かご淋しき人とふと思ふ」
○囮小屋一羽を入れてありにけり 大江 月子 「ありにけり」は不要か。
○嘆き鳴きしても誉められ囮かな 安居 正浩 かつて鳥語を解す人ありぬ。
 網の中囮を入れてもう二日 岡田 光生 「もう二日」が利いていない。
 われを呼ぶ声にあらねど囮籠 吉田いろは 「声にも聞こえ」という案も。
 あはう鳥をとりの鳥に恋をして 天野喜代子 あほうどりならずとも。
 囮篭昨日の戦果を探検に 礒部 和子 「探検に」は大仰か。
 をとり者おどかされるもの世の常 竹内 林書 人の世に変わらずの意か。
 鎮守様をとりの声を消し賜ふ 五十嵐信代 鎮守の何が消したのか。
 矢を射ても届かぬ場所のをとりかな 中村  緑 感動の焦点が不鮮明。
 しのび足をとりと知らず子猫来て 米田かずみ 「しのび足」捨てて再考。
 をとり箱窺きて半日過ぎてをり 清水さち子 「過ぎてをり」捨てて再考。
 仲間呼べ苗圃の中に囮籠 谷  美雪 誰(何)の仲間か不鮮明。
 百代の過客よ日がな囮番 植田よしお 「百代の過客」の意図難解。
 をとりおきそつとかくれて雀待つ 石川三千代 説明に終わった。
 待合せをとりと知りし母がいて 後藤 祥子 「おとり」が誰か不鮮明。
 囮かけ何も得るなき日がなかな 三島 菊枝 獲物なき一日という意か。
 囮籠静かにかけて見守れり 小出 富子 素直すぎても困るなり。
【木の葉髪】毎年秋から冬にかけて多い抜け毛を落葉にたとえた語。近代に生まれた季題。
◎気に入りの帽子はひとつ木の葉髪 清水さち子 いとおしむ心なり。
◎木の葉髪懐紙に受けて前帯に 谷  美雪 慎ましやかで美しき。
◎豊かなる長寿の白き木の葉髪 根本 文子 その人に自得の美を見た。
◎精進す木の葉髪など気にとめず 西野 由美 わびしさをはねのける意志。
◎木の葉髪半生賭けし職を辞す 大原 芳村 人の世の一切が見ゆ。
◎想ひ出にひたる事増え木の葉髪 三木 喜美 抜け毛を見る目がやさしい。
◎デパートの姿見にふと木の葉髪 堀口 希望 あわれと、いとおしさと美しき。
◎薬害に木の葉髪なる病後かな 天野喜代子 まさに現代の悲劇をとらえて逸。
○木の葉髪いつまでやれる芸の道 天野 さら 措辞「やれる」が気になる。
○風が来て互ひに見合ふ木の葉髪 椎名美知子 「見合わせる顔」。
○木の葉髪とて青年の気概あり 安居 正浩 むしろ若きころ以上に…。
 銀色もひときわ奇麗木の葉髪 小出 富子 「銀色が」。
 肩叩く子の掌の固く木の葉髪 梅田ひろし 心持ちの悪さで二者をつなぐか。
 つつまれた母の古櫛木の葉髪 五十嵐信代 事実を超えた美的想化を。
 木の葉髪職退きて子らの声 米田かずみ 誰の、どんな「子らの声」か。
 学食の離れて一人木の葉髪 植田よしお 「学食に」。但し淋しすぎる。
 うたごゑえの広場の友も木の葉髪 中村  緑 「 うたごゑえの広場」難解。
 艶やかな帽子で隠す木の葉髪 中村美智子 「艶やかな」が曖昧。
 木の葉髪髷に結ひ込み村芝居 大江 月子 「結ひ込み」は強し。
 いつの間に白く変はりし木の葉髪 尾崎 弘三 老いは容赦なく、しかも不意。
 知り人の訃報の多し木の葉髪 三島 菊枝 淋しすぎなり。
 術後の身頼りし妻の木の葉髪 金井  巧 淋しすぎなり。
 風立つや喪服の肩を木の葉髪 有村 南人 淋しすぎなり。
 木の葉髪なれど朗々講釈師 市川 千年 木の葉髪は抜け落ちた髪なり。
 木の葉髪思ふ暇なく庭掃除 平岡 佳子 「庭掃除」を捨てたい。
 木の葉髪きんもくせいもかざりをり 石川三千代 中七・下五難解。
 午後三時ロンドを聴くや木の葉髪 後藤 祥子 配合に飛躍あり。
 木の葉髪生え変わりよと思ひやり 岡田 光生 中七の表現不安定。
 木葉髪老いの一徹朝鏡 礒部 和子 「老いの一徹」難解。
 木の葉髪そつと流して盛り付けす 櫻木 とみ 「盛り付けす」が難解。
 夢の馬車君を隣に木の葉髪 吉田いろは 下五の意図わかりにくし。
 蕎麦切りをゆがく間の夢木の葉髪 松村  實 下五の意図わかりにくし。
 窓開き朝日に放つ木の葉髪 尾崎喜美子 苦情の恐れはないか。
 木の葉髪育ちし家と共に老い 水野千寿子 「家も」。
 木の葉髪櫛にからみてそのままに 竹内 林書 汚き描写なり。
 洗面の白き陶器に木の葉髪 織田 嘉子 汚き描写なり。
海紅切絵図
なめこ汁と聞けば目覚めて食卓に 海 紅
立つ鳥に今一度鳴く囮かな
木の葉髪芭蕉蕪村を少し知る
 
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