【牛冷す】農耕で疲れた牛の疲労回復。馬でも本意は同じ。 |
◎沛然と雨泰然と冷し牛 |
松村 實 |
「沛然と」は雨の盛んなる形容。韻律もよい。 |
◎耳だけを動かしてゐる冷牛 |
大原 芳村 |
耳の動きは心地よさの表象。類句やや心配。 |
◎小流れに牛冷しゐる母郷かな |
堀口 希望 |
「小流れ」と牛の配合美しく、懐しく。 |
◎一幅の墨絵のなかに牛冷やす |
植田好太郎 |
画幅に世界を求めたところ面白し。 |
○川下の木蔭に引いて牛冷やす |
根本 文子 |
こうした事実はたしかにあろう。 |
○垣根越し晩鐘聞きつつ牛冷す |
水野千寿子 |
豊かな一日がこうして終わるのだ。 |
○牛冷すつぶらな瞳覗きつつ |
三木 喜美 |
もの言わぬ牛の心を確かめつつ。 |
○牛洗ふ農夫優しき目をみせて |
小出 富子 |
牛の眼の優しさが農夫にもうつるのであろう。 |
○牛の目にやさしさやどり冷やされし |
安居 正浩 |
「やどり」を「戻る」とせば時間も出る。 |
○広き背に光る水草冷し牛 |
吉田いろは |
「水草」が印象的なり。 |
○牛冷やす三々五々村の瀬に |
尾崎喜美子 |
素直な景。但し一音不足。 |
○藁まるめ牛の背洗ふ日暮れかな |
尾崎 弘三 |
「藁まるめ」で説明しすぎになった。 |
○勝ち名のりうけ息荒き牛冷す |
三島 菊枝 |
牛の角突きなどの景であろう。 |
○夕暮の川辺で牛を洗ひけり |
竹内 林書 |
こうした当たり前の描写を続けて下さい。 |
○由良川の浅瀬で牛を冷す村 |
平岡 佳子 |
「浅瀬に」としようか。 |
○遊ぶごとし童はホースで牛冷す |
五十嵐信代 |
景は新鮮だが、初五は再考か。 |
牛冷す皆静かなり父息子 |
岡田 光生 |
「皆」捨てるべきか。 |
牛洗ふ人に牛にも通り雨 |
大江 月子 |
「牛にも」を捨てたい。 |
冷し牛じっと水辺に何想ふ |
天野喜代子 |
「じっと水辺に」を捨てたい。 |
クワイ川タイの夕暮れ牛冷す |
礒部 和子 |
「タイの」を捨てたい。 |
はらみ牛自らゆっくり冷やす沼 |
櫻木 とみ |
趣向が過ぎたか。 |
なすがまま子に洗はるる冷やし馬 |
梅田ひろし |
「なすがまま」か「子」のどちらかに軸足を。 |
冷やし牛重き体で流れ圧す |
西野 由美 |
「流れ圧す」という表現落ち着かず。 |
泥乾く砂利道降りて牛冷す |
市川 千年 |
初五中七と下五に緊密感乏し。 |
牛冷やす以心伝心人と牛 |
天野 さら |
よくわかるが、「以心伝心」で通俗的になった。 |
浅間山煙かすかの牛冷す |
中村 緑 |
「煙かすかの」の効果危うい。 |
牛冷やす川面も人もモノトーン |
椎名美知子 |
「モノトーン」にこめるもの不安定。 |
声かけて労をねぎらい牛冷す |
青柳 光江 |
農夫と牛とであろうか。 |
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(注)自他場 自は作中人物自身の心情を描いた句。他は作中人物の言動や心情を外部からみて描いた句。場は心情を描かない句、つまり景色。むろん、これらが入り交じる場合もあり。 |