鳩の会の会報 30   ホーム
鳩ノ会会報30
兼題 巣立・桑摘・袋角
善知識にあふことも 教ふることもまたかたし
よく聴くこともかたければ 行ずることもなほかたし

(親鸞・三帖和讃)
【巣 立】 早いものは孵化から十日前後、地上で営巣するものは孵化直後に巣立つというから驚く。俳諧では一茶の文化年間(一八〇四〜)ころから季の詞であったようだ。
◎大きく口開けて巣立へあと少し 安居 正浩 親鳥とも人間の言葉とも。
○学業の巣立ちも無しの軍国少女 平岡 佳子 失われし時を求める自画像。
○親の夢を巣立ちの子に托しけり 竹内 林書 「巣立ちゆく子に」。
○巣立ちたる巣箱のなかのひなの羽毛 西野 由美 「巣箱の中に」。
○子雲雀も母も巣立ちて声高く 根本 文子 母は巣立ちと言わず。
○雇用期間終えて新たな巣立ちかな 岡田 光生 本当の巣立は確かに孤独。
○子鴉の口に黄残し巣立ちをり 大江 月子 「子鴉」を捨てて再案。
○一二三海へ直下の巣立かな 吉田いろは 「一二三」を捨てて再案。
○ひとかどの面構へして巣立ちけり 金井  巧 「ひとかどの」を捨てたし。
○鸛巣立ちを待ちてニュースかな 礒部 和子 「鸛の巣立ちとらへし」。
○コウノトリ巣立待たるる過疎の里 水野千寿子 「過疎の」捨てて再案。
○GOOD・LUCK!今朝わが軒を巣立ちけり 堀口 希望 眼前致景なれど弱し。
○軒下の糞も干からび巣立かな 天野喜代子 眼前致景なれど弱し。
○一羽ふえ二羽ふえ忙し巣立鳥 清水さち子 眼前致景なれど弱し。
○餌をせせる足おぼつかな巣立鳥 三島 菊枝 眼前致景なれど弱し。
○おしどりの無事着地する巣立ちかな 尾崎喜美子 眼前致景なれど弱し。
○親鳥の声を勇気に巣立つヒナ 尾崎 弘三 眼前致景なれど弱し。
○巣立鳥はやきかん気な声を挙げ 梅田ひろし 眼前致景なれど弱し。
○夕べまだ飛び立ちかねつ巣立鳥 園田 靖子 「巣立ちかねたる夕かな」。
○鳥巣立つ物干し竿に先づ止まり 堀 眞智子 「鳥」不要。
 鳥巣立つ和毛匂ひぬ雨の夜 五十嵐信代 「雨の夜」を捨てて再案。
 賑やかな巣立ちまぢかの箱の中 織田 嘉子 眼前致景なれど弱し。
 納屋の戸を閉めて巣立ちの跡を見し 櫻木 とみ 巣の在処が見えない。
 巣立ちたり海へ身を投げ信天翁 松村  實 「信天翁(あほうどり)」不要。
 巣立かな老父寿ぎ寿がれ 市川 千年 「かな」の位置、語法再考。
 巣立鳥ボール追いかけ宙を行く 谷  美雪 ボールを追うのは無理。
 総ガラス巣立ちしめじろ激突し 小出 富子 気の毒でいただけない。
 転職の家を去りゆく巣立かな 大原 芳村 「転職の家」読者に届かず。
  逗子にて    
 巣立鳥咥え煙草で立ち去りぬ 大鋸 甚勇 動作の主体を明確に。
 巣立鳥暁光の中消えゆきて 三木 喜美 もっと省略してスリムに。
 まだ親の羽根色持たず巣立ちけり 有村 南人 至極当然の景に終わる。
 初孫の巣立は涙の入園式 中村美智子 すべてを言う勿れ。
【桑 摘】 蚕に与える桑の葉を摘むこと。旧桑籠・桑車・桑倉。
◎桑籠や博物館の森閑と 松村  實 昔日にひたる場所。
◎母の背は桑摘み歌が子守歌 礒部 和子 季題に母性が甦る。
○桑摘みの匂ひ放ちて汗の母 清水さち子 中七、下五露骨なり。
○忘れ果てし媼桑摘む手のしぐさ 根本 文子 よき主題なれど未完。
○絹子なら母のことよと桑摘女 市川 千年 佳句、しかし平句か。
○遠き日の女工哀史へ桑を摘む 安居 正浩 「女工哀史へ」の「へ」難解。
○桑を摘む下校途中の小学生 岡田 光生 眼前致景なれど弱し。
○桑摘みの唄のやさしき野に響き 三木 喜美 「やさしく」。
○桑摘も勤労奉仕の女学生 平岡 佳子 「桑摘むや」。
○教材の毛蚕の顔見て桑摘みし 中村美智子 今の世を写して面白し。
○桑摘や秩父盆地の無縁塚 金井  巧 「秩父盆地に」。
○蚕せく桑摘みの指黒くなり 櫻木 とみ 「蚕せく」は不要。
○喰む音の耳に残りて桑を摘む 尾崎喜美子 「残れる」。
○夕映えに桑摘む人の残りをり 堀 眞智子 「夕映えの」。
○泳ぎゐるヘッドランプや夜桑摘 大原 芳村 「泳ぎゐる」を再考したい。
○日の高く母まだ桑を摘みてをり 梅田ひろし 眼前致景なれど弱し。
○雨雲に子も駆り出され桑を摘む 水野千寿子 眼前致景なれど弱し。
○背の籠に溢れるほどに桑を摘み 尾崎 弘三 眼前致景なれど弱し。
○はじけさうな枝を引き寄せ桑摘ぬ 小出 富子 眼前致景なれど弱し。
○子の理科に付き合うて桑摘んでをり 堀口 希望 眼前致景なれど弱し。
○雨雲を横目で見つつ桑を摘む 天野喜代子 眼前致景なれど弱し。
○桑摘むや今日は雨夜の姉妹 大江 月子 眼前致景なれど弱し。
○評判の姉妹そろふて桑の籠 吉田いろは 眼前致景なれど弱し。
 桑摘みの夕暮山は茜色 竹内 林書 眼前致景なれど弱し。
 桑籠に吾子を背負ひて桑を摘む 三島 菊枝 眼前致景なれど弱し。
 摘みし桑手早く広げる蚕棚 織田 嘉子 眼前致景なれど弱し。
 桑摘むや音の幽さ朝まだき 有村 南人 眼前致景なれど弱し。
 真青なる空に風なし桑菜摘む 園田 靖子 「風なし」の意図危うし。
 桑摘みや人なき家に一樹あり 五十嵐信代 「一樹あり」の意図難解。
 桑摘や五齢リズムで上に下に 谷  美雪 「五齢(ごれい)」教えて。
 桑摘んでしよい帰るいへ赤子待つ 西野 由美 赤子を配した情伝わらず。
 秒針の速さに合わせ桑を摘む 大鋸 甚勇 穿ち過ぎか。
【袋 角】初夏にかけて鹿に生え変わる、柔らかい皮膚につつまれた角。若角は小さいので鹿茸とも言う。近世初期から。
◎袋角ちらつと見えし藪の中 尾崎 弘三 鹿との距離に袋角の情あり。
◎生え変はる人に歯鹿に角袋 安居 正浩 嗚呼、生きとし生けるものよ。
○袋角少年の耳の熱さかな 五十嵐信代 「熱きかな」。
○やはらかき若草山や袋角 大原 芳村 上五にて余情あり。
○袋角やはらかき陽に見守られ 三木 喜美 「に見守られ」の饒舌が難。
○袋角触れてみたき柔らかさ 尾崎喜美子 素直。「触つてみたき」。
○こぬか雨袋の角が艶をます 礒部 和子 「角の艶やかに」。
○鹿茸や奈良へは一度行ったきり 市川 千年 景情整うが、平句の格か。
 厳島足の素早き袋角 根本 文子 厳島の本意を詠み込みたい。
 宮島の鹿に幾世や袋角 大江 月子 宮島の本意を詠み込みたい。
 やがてくる争いありし袋角 小出 富子 「爭ひありし」の語法不安定。
 袋角発育知らざる我愚か 平岡 佳子 心余りて言葉足らず。
 日吉館閉ぢて幾年袋角 堀口 希望 季が動くのではあるまいか。
 袋角沸沸地球温暖化 大鋸 甚勇 季が動くのではあるまいか。
 塔の影走り来る影袋角 金井  巧 季が動くのではあるまいか。
 夕まぐれ愛敬ある顔の袋角 園田 靖子 なぜ「夕まぐれ」か。
 袋角干潮の大鳥居に擦り付け 中村美智子 なぜ「干潮の大鳥居」か。
 袋角歩く木の間にみつめる目 櫻木 とみ 「歩く」を捨てて再考。
 袋角鹿に餌をやる新一年 天野喜代子 「新一年」捨てて再考。
 袋角かぶつて園子皆蝸牛 竹内 林書 季題の本意を逸れた。
 恥ぢらひて森へ駆けけり袋角 松村  實 穿ちすぎか。
 ニイーニイーと鳴いて摩り寄る袋角 谷  美雪 穿ちすぎか。
 大仏殿のそり寄り来る袋角 水野千寿子 穿ちすぎか。
 袋角考へごとのあるらしき 清水さち子 穿ちすぎか。
 傷つかぬほどの近さに袋角 吉田いろは 穿ちすぎか。
 いだく子の手を伸ばしたる袋角 堀 眞智子 穿ちすぎか。
 袋角のちの生ひさま知らるべし 西野 由美 穿ちすぎか。
 険難な眼光らせ袋角 梅田ひろし 眼前致景なれど弱し。
 親子鹿揃ひ踏みせる袋角 三島 菊枝 眼前致景なれど弱し。
 袋角やがてりっぱな防備なる 岡田 光生 眼前致景なれど弱し。
海紅切絵図
つばくらに生まれ変はりて今日巣立ち 海 紅
ときに孫を乗せもするなり桑車
門跡寺からも一列袋角
 
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