【巣 立】 早いものは孵化から十日前後、地上で営巣するものは孵化直後に巣立つというから驚く。俳諧では一茶の文化年間(一八〇四〜)ころから季の詞であったようだ。 |
◎大きく口開けて巣立へあと少し |
安居 正浩 |
親鳥とも人間の言葉とも。 |
○学業の巣立ちも無しの軍国少女 |
平岡 佳子 |
失われし時を求める自画像。 |
○親の夢を巣立ちの子に托しけり |
竹内 林書 |
「巣立ちゆく子に」。 |
○巣立ちたる巣箱のなかのひなの羽毛 |
西野 由美 |
「巣箱の中に」。 |
○子雲雀も母も巣立ちて声高く |
根本 文子 |
母は巣立ちと言わず。 |
○雇用期間終えて新たな巣立ちかな |
岡田 光生 |
本当の巣立は確かに孤独。 |
○子鴉の口に黄残し巣立ちをり |
大江 月子 |
「子鴉」を捨てて再案。 |
○一二三海へ直下の巣立かな |
吉田いろは |
「一二三」を捨てて再案。 |
○ひとかどの面構へして巣立ちけり |
金井 巧 |
「ひとかどの」を捨てたし。 |
○鸛巣立ちを待ちてニュースかな |
礒部 和子 |
「鸛の巣立ちとらへし」。 |
○コウノトリ巣立待たるる過疎の里 |
水野千寿子 |
「過疎の」捨てて再案。 |
○GOOD・LUCK!今朝わが軒を巣立ちけり |
堀口 希望 |
眼前致景なれど弱し。 |
○軒下の糞も干からび巣立かな |
天野喜代子 |
眼前致景なれど弱し。 |
○一羽ふえ二羽ふえ忙し巣立鳥 |
清水さち子 |
眼前致景なれど弱し。 |
○餌をせせる足おぼつかな巣立鳥 |
三島 菊枝 |
眼前致景なれど弱し。 |
○おしどりの無事着地する巣立ちかな |
尾崎喜美子 |
眼前致景なれど弱し。 |
○親鳥の声を勇気に巣立つヒナ |
尾崎 弘三 |
眼前致景なれど弱し。 |
○巣立鳥はやきかん気な声を挙げ |
梅田ひろし |
眼前致景なれど弱し。 |
○夕べまだ飛び立ちかねつ巣立鳥 |
園田 靖子 |
「巣立ちかねたる夕かな」。 |
○鳥巣立つ物干し竿に先づ止まり |
堀 眞智子 |
「鳥」不要。 |
鳥巣立つ和毛匂ひぬ雨の夜 |
五十嵐信代 |
「雨の夜」を捨てて再案。 |
賑やかな巣立ちまぢかの箱の中 |
織田 嘉子 |
眼前致景なれど弱し。 |
納屋の戸を閉めて巣立ちの跡を見し |
櫻木 とみ |
巣の在処が見えない。 |
巣立ちたり海へ身を投げ信天翁 |
松村 實 |
「信天翁(あほうどり)」不要。 |
巣立かな老父寿ぎ寿がれ |
市川 千年 |
「かな」の位置、語法再考。 |
巣立鳥ボール追いかけ宙を行く |
谷 美雪 |
ボールを追うのは無理。 |
総ガラス巣立ちしめじろ激突し |
小出 富子 |
気の毒でいただけない。 |
転職の家を去りゆく巣立かな |
大原 芳村 |
「転職の家」読者に届かず。 |
逗子にて |
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巣立鳥咥え煙草で立ち去りぬ |
大鋸 甚勇 |
動作の主体を明確に。 |
巣立鳥暁光の中消えゆきて |
三木 喜美 |
もっと省略してスリムに。 |
まだ親の羽根色持たず巣立ちけり |
有村 南人 |
至極当然の景に終わる。 |
初孫の巣立は涙の入園式 |
中村美智子 |
すべてを言う勿れ。 |
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【桑 摘】 蚕に与える桑の葉を摘むこと。旧桑籠・桑車・桑倉。 |
◎桑籠や博物館の森閑と |
松村 實 |
昔日にひたる場所。 |
◎母の背は桑摘み歌が子守歌 |
礒部 和子 |
季題に母性が甦る。 |
○桑摘みの匂ひ放ちて汗の母 |
清水さち子 |
中七、下五露骨なり。 |
○忘れ果てし媼桑摘む手のしぐさ |
根本 文子 |
よき主題なれど未完。 |
○絹子なら母のことよと桑摘女 |
市川 千年 |
佳句、しかし平句か。 |
○遠き日の女工哀史へ桑を摘む |
安居 正浩 |
「女工哀史へ」の「へ」難解。 |
○桑を摘む下校途中の小学生 |
岡田 光生 |
眼前致景なれど弱し。 |
○桑摘みの唄のやさしき野に響き |
三木 喜美 |
「やさしく」。 |
○桑摘も勤労奉仕の女学生 |
平岡 佳子 |
「桑摘むや」。 |
○教材の毛蚕の顔見て桑摘みし |
中村美智子 |
今の世を写して面白し。 |
○桑摘や秩父盆地の無縁塚 |
金井 巧 |
「秩父盆地に」。 |
○蚕せく桑摘みの指黒くなり |
櫻木 とみ |
「蚕せく」は不要。 |
○喰む音の耳に残りて桑を摘む |
尾崎喜美子 |
「残れる」。 |
○夕映えに桑摘む人の残りをり |
堀 眞智子 |
「夕映えの」。 |
○泳ぎゐるヘッドランプや夜桑摘 |
大原 芳村 |
「泳ぎゐる」を再考したい。 |
○日の高く母まだ桑を摘みてをり |
梅田ひろし |
眼前致景なれど弱し。 |
○雨雲に子も駆り出され桑を摘む |
水野千寿子 |
眼前致景なれど弱し。 |
○背の籠に溢れるほどに桑を摘み |
尾崎 弘三 |
眼前致景なれど弱し。 |
○はじけさうな枝を引き寄せ桑摘ぬ |
小出 富子 |
眼前致景なれど弱し。 |
○子の理科に付き合うて桑摘んでをり |
堀口 希望 |
眼前致景なれど弱し。 |
○雨雲を横目で見つつ桑を摘む |
天野喜代子 |
眼前致景なれど弱し。 |
○桑摘むや今日は雨夜の姉妹 |
大江 月子 |
眼前致景なれど弱し。 |
○評判の姉妹そろふて桑の籠 |
吉田いろは |
眼前致景なれど弱し。 |
桑摘みの夕暮山は茜色 |
竹内 林書 |
眼前致景なれど弱し。 |
桑籠に吾子を背負ひて桑を摘む |
三島 菊枝 |
眼前致景なれど弱し。 |
摘みし桑手早く広げる蚕棚 |
織田 嘉子 |
眼前致景なれど弱し。 |
桑摘むや音の幽さ朝まだき |
有村 南人 |
眼前致景なれど弱し。 |
真青なる空に風なし桑菜摘む |
園田 靖子 |
「風なし」の意図危うし。 |
桑摘みや人なき家に一樹あり |
五十嵐信代 |
「一樹あり」の意図難解。 |
桑摘や五齢リズムで上に下に |
谷 美雪 |
「五齢(ごれい)」教えて。 |
桑摘んでしよい帰るいへ赤子待つ |
西野 由美 |
赤子を配した情伝わらず。 |
秒針の速さに合わせ桑を摘む |
大鋸 甚勇 |
穿ち過ぎか。 |
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【袋 角】初夏にかけて鹿に生え変わる、柔らかい皮膚につつまれた角。若角は小さいので鹿茸とも言う。近世初期から。 |
◎袋角ちらつと見えし藪の中 |
尾崎 弘三 |
鹿との距離に袋角の情あり。 |
◎生え変はる人に歯鹿に角袋 |
安居 正浩 |
嗚呼、生きとし生けるものよ。 |
○袋角少年の耳の熱さかな |
五十嵐信代 |
「熱きかな」。 |
○やはらかき若草山や袋角 |
大原 芳村 |
上五にて余情あり。 |
○袋角やはらかき陽に見守られ |
三木 喜美 |
「に見守られ」の饒舌が難。 |
○袋角触れてみたき柔らかさ |
尾崎喜美子 |
素直。「触つてみたき」。 |
○こぬか雨袋の角が艶をます |
礒部 和子 |
「角の艶やかに」。 |
○鹿茸や奈良へは一度行ったきり |
市川 千年 |
景情整うが、平句の格か。 |
厳島足の素早き袋角 |
根本 文子 |
厳島の本意を詠み込みたい。 |
宮島の鹿に幾世や袋角 |
大江 月子 |
宮島の本意を詠み込みたい。 |
やがてくる争いありし袋角 |
小出 富子 |
「爭ひありし」の語法不安定。 |
袋角発育知らざる我愚か |
平岡 佳子 |
心余りて言葉足らず。 |
日吉館閉ぢて幾年袋角 |
堀口 希望 |
季が動くのではあるまいか。 |
袋角沸沸地球温暖化 |
大鋸 甚勇 |
季が動くのではあるまいか。 |
塔の影走り来る影袋角 |
金井 巧 |
季が動くのではあるまいか。 |
夕まぐれ愛敬ある顔の袋角 |
園田 靖子 |
なぜ「夕まぐれ」か。 |
袋角干潮の大鳥居に擦り付け |
中村美智子 |
なぜ「干潮の大鳥居」か。 |
袋角歩く木の間にみつめる目 |
櫻木 とみ |
「歩く」を捨てて再考。 |
袋角鹿に餌をやる新一年 |
天野喜代子 |
「新一年」捨てて再考。 |
袋角かぶつて園子皆蝸牛 |
竹内 林書 |
季題の本意を逸れた。 |
恥ぢらひて森へ駆けけり袋角 |
松村 實 |
穿ちすぎか。 |
ニイーニイーと鳴いて摩り寄る袋角 |
谷 美雪 |
穿ちすぎか。 |
大仏殿のそり寄り来る袋角 |
水野千寿子 |
穿ちすぎか。 |
袋角考へごとのあるらしき |
清水さち子 |
穿ちすぎか。 |
傷つかぬほどの近さに袋角 |
吉田いろは |
穿ちすぎか。 |
いだく子の手を伸ばしたる袋角 |
堀 眞智子 |
穿ちすぎか。 |
袋角のちの生ひさま知らるべし |
西野 由美 |
穿ちすぎか。 |
険難な眼光らせ袋角 |
梅田ひろし |
眼前致景なれど弱し。 |
親子鹿揃ひ踏みせる袋角 |
三島 菊枝 |
眼前致景なれど弱し。 |
袋角やがてりっぱな防備なる |
岡田 光生 |
眼前致景なれど弱し。 |
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海紅切絵図 |
つばくらに生まれ変はりて今日巣立ち |
海 紅 |
ときに孫を乗せもするなり桑車 |
同 |
門跡寺からも一列袋角 |
同 |
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