鳩の会の会報 27
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兼題
焼米・林檎・風除
しづかなる睦月ついたちほのぼのと遠山の秀の雪を思へり
(迢空・倭をぐな)
【焼 米】 稲穂を炒って手で籾を落とし、さらに炒って食す古代食に始まる。やがて初穂を炒って神に供えたり、家々で贈り合って、その美味を賞した。『蜻蛉日記』に見え、『俳諧初学抄』(正保二年)以後の歳時記類に秋季。
◎焼米やどんな顔なる祖母の祖母
安居 正浩
「祖母の祖母」と遡る腕確か。
◎焼米に少し籾の香あるやうな
小出 富子
香って来るかのような句。
◎焼米や書に飢え食に飢えし頃
金井 巧
「焼米」「食」の配合やや近し。
◎酒尽きて焼米尽きて夜が更ける
礒部 和子
動詞が三つはうるさいので、「深更に」。
○焼米を噛みしむ平家村祭り
梅田ひろし
平家村と焼米の配合やや近し。
○焼米を手押し車に祖母来る
吉田 久子
「手押し車に」がリアルで哀し。
○焼米を肴に語る年になり
五味田蕩稜
過去のものという先入主を捨てよう。
○焼米をとんと今日まで知らざりし
浜田 惟代
「焼米の美味よ今日まで知らざりし」
○焼米を和紙に包んでなほゆかし
大江 月子
「なほゆかし」が言い過ぎなり。
○焼米やネットのレシピ試しをり
尾崎喜美子
「焼米の」。
○炒米をおやつがはりの読書かな
千葉ちちろ
あったに違いない景色なり。
○戦時中焼米知らぬ女学生
平岡 佳子
この通りだが、それが不満。
○焼米をもらふ喜び分ける幸
三木 喜美
この通りだが、それが不満。
○焼米をつまみに昔語りかな
堀口 希望
「昔語り」に具象性が欲しい。
○指の跡撫でて焼米神棚へ
根本 文子
「神棚」が近すぎる。
○焼米のほの甘き香忘られず
水野千寿子
「甘き香を」。
○豊作にまずは焼米奉納す
岡田 光生
この通りだが、それが不満。
○焼米のはじけてポップコーンの香
天野喜代子
添書を取り込んで推敲してみた。
焼米の知らぬ世代よパンを焼く
椎名美知子
自分か他者かを区別すれば情が出る。
焼米の香り陰から厨から
尾崎 弘三
「陰から」が不安定。
焼米や自慢話で煎りあがり
谷 美雪
「や」があるのに切れていない。
焼米の季節となりて心せく
織田 嘉子
「心せく」、観念的で伝わらず。
焼米を拾ふ役割待ちてゐし
清水さち子
「拾ふ」が利いていない。
焼米や竈なき家も札貼りぬ
五十嵐信代
「札貼りぬ」が利いていない。
顕微鏡古代の焼米見る角度
櫻木 とみ
「角度」は要らない。
焼米や醤油の匂ひ狭き店
中村 緑
「狭き店」が利いていない。
焼米の匂ひ一村覆ひけり
竹内 林書
「覆ひけり」誇張しすぎ。
【林 檎】江戸期に中国原産の和林檎を詠む。今は明治期に入った西洋林檎を指す。
◎試食用林檎がどんと店先に
吉田 久子
抑制が利いた表現みごと。豊かさが横溢。
◎手を出せば届く車窓に林檎の木
三木 喜美
きっと単線で、あかく熟して…。
◎林檎かじる妻に明るさ戻りけり
梅田ひろし
「戻りをり」といずれがよきや。
◎林檎の香明日退院の子の部屋に
金井 巧
安定した絵柄。
◎落林檎見事な鳥の歯形かな
五十嵐信代
「落林檎」という言葉不安定。
○熱の子にりんごのケーキ焼き冷やす
根本 文子
「冷やす」は要らない。
○病床の夫を案じて林檎擂る
小出 富子
「案じて」は不要。
○風邪癒えて林檎の甘さ噛み締める
礒部 和子
「噛み締める」が饒舌。
○知らぬまに鳥のサロンの姫林檎
尾崎 弘三
「鳥のサロンや」。
○リンゴ狩り老いも若きも天向きに
竹内 林書
「天仰ぎ」。
○齧る林檎アップルパイになる林檎
安居 正浩
文の構造の魅力。林檎に区別ありや。
○林檎剥くりんごの唄は母のうた
堀口 希望
繰り返したところは実力だが、情が滑る。
○ニュートンの林檎ここにも育ちをり
織田 嘉子
「ニュートン」斬新だが、そこまで。
○あどけなき口付けのごと林檎はむ
五味田蕩稜
「あどけなき」を捨てる勇気を。
林檎切る瞬間蜜の透き通る
堀 眞智子
面白い視点だが、「瞬間」が難解。
歳食って林檎の皮むき上手なり
水野千寿子
「林檎」に限らぬ点を再考したい。
幾日も林檎置いてた単身寮
岡田 光生
切ない過去の記憶か。なにゆえ「置いてた」のか。
歴史散歩りんご出されし長屋門
浜田 惟代
「出されし」をもう少し踏み込みたい。
籾殻にうもれて赤き林檎かな
尾崎喜美子
「埋もれ」「赤き」に因果なし。
片想ひもすぱっと切りたき林檎かな
千葉ちちろ
中で切らねば意味通ぜず。
寿の文字林檎二つ式場に
櫻木 とみ
「二つ式場に」が饒舌。
照り映えて街路樹のりんごたわわなる
椎名美知子
「照り映え」「たわわ」、感動はどっち。
見事やねりんご公園一服す
谷 美雪
「公園」で切れる故「見事なる」がいい。
林檎むき思ひ出語る母の顔
内藤 村秀
「林檎むきつつ思ひ出を語りをり」
林檎汁一滴残さずすする母
中村 緑
「一滴残さす」は重し。
林檎とは全きものよ生きること
大江 月子
「生きること」が唐突なり。
林檎赤しきち女の歌碑の川場村
清水さち子
「きち女」に前書欲しい。
敗戦の痛手救ひしリンゴ唄
天野喜代子
「痛手救ひし」が語りすぎ。情が滑る。
弘前は林檎と覚えし小学校
平岡 佳子
「弘前は林檎と覚えし昔あり」。
【風 除】寒風を避ける塀や垣の類。寒冷地の冬の厳しさを背景に認知された近代以後の題。
◎風囲ひかるがると越え湖の音
吉田 久子
この景情学ぶべし、目指すべし。
◎出稼ぎのみやげ差し出す風囲ひ
千葉ちちろ
中七の切れ具合で成功、多分ね。
◎風除の黒板塀の鄙暮らし
平岡 佳子
抑制の利いた情を称えたい。
○風除は祖先の植えし杉囲ひ
根本 文子
安定した絵柄。
○風除の修繕の跡青々と
堀 眞智子
欲を言えば「跡」を具体的に。
○朝凪を風除そつと感じてる
小出 富子
「そつと」が安易。
○家も木も風除をして静かなり
安居 正浩
安定した絵柄。
○麦わらの柵で畑の風除けに
岡田 光生
「柵が」とすれば驚きが伝わる。
○風除の松の律儀に並びをり
三木 喜美
「律義に一列に」。
○風除や沖眺めゐる老漁師
堀口 希望
安定した絵柄。
○風除をつくる指先冷たくて
織田 嘉子
「指先赤くして」で情が生まれる。
○風除けのいらぬ上総の国に住み
浜田 惟代
「住む」。
○南島の風除け赤い花の垣
大江 月子
季重ねでも「赤い花」を具体的に。
○風除を飛び出し海へ犬走る
梅田ひろし
「飛び出して犬…」。
○風除を欠かせぬ町の朝の市
金井 巧
具体へ向けて「町」を再考したい。
○叱られて佇みてをり風の垣
清水さち子
安定した絵柄。
○母を待つ坊や顔出す風除塀
五十嵐信代
平俗だが瑕瑾なし。
○風除けの外に新婚家を建て
櫻木 とみ
なんとなくおかしみあり。
○風除の中の小さき花の叢
尾崎 弘三
季重ねを気にせず花の名を示したい。
○風除や風のこどもも引き返し
中村 緑
「引き返す」。
風除の陰で沢庵漬け置きす
谷 美雪
「陰に」。
町外れ急に風除欲しくなり
水野千寿子
「町外れ」が言葉足らず。
むさし野の風除欅屋敷林
天野喜代子
説明に終始してしまった。
風除けに小山がありて青菜吹く
椎名美知子
「風除の小山一面」。
屋敷林富山平野に島のごとく
尾崎喜美子
「ごと」でよい。
埋火よ風除け作業まゝならず
礒部 和子
「埋火」の意図が読者に届かず。
北窓に故夫植えたるの風除樹
竹内 林書
例えば「亡き夫の植えし風除林が鳴る」。
いつくしみて風除なづる祖父逝きぬ
五味田蕩稜
「風除」の意図を再考。
海紅切絵図
焼米の話転じて良寛へ
海 紅
我も亦林檎の国を故郷とす
同
風除といふ豊かさと人柄と
同
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