鳩の会の会報 26   ホーム
鳩ノ会会報26
兼題 硯洗・不知火・夜学
吾木香すすきかるかや秋くさのさびしききはみ君におくらむ
(牧水・別離)
【硯 洗】七夕の前日に硯や筆や机を綺麗にしたのです。字の上達を祈って。古代からだと思う。
◎祝ふ事久しき硯洗ひけり 小出 富子 硯の出番ができたよろこび。要熟読。
◎亡き父にもらいし硯洗ひをり 園田 靖子 「洗ひけり」でしょうね。
◎母へ文書きし硯を洗ひけり 安居 正浩 言葉・心ともに、これ以上の上品・具象はなし。
○朴訥な義父思ひ出す硯洗 織田 嘉子 この素直な表現を忘れないでください。
○履修の書仕上げ硯を洗ひけり 金井  巧 「履修」饒舌。「書き上げてそして硯を洗ひけり」
書道展出品
○入選を願つて洗ふ硯かな 天野喜代子 何の破綻もない表現、ここが出発点です。
○恙なき日々のありがたし硯洗ふ 清水さち子 「ありがたし」が饒舌。「恙なき一日を硯洗ふ日に」
○三筆を夢みて硯洗ひけり 三島 菊枝 大きな夢でうらやましい。
○母と娘のこぼるる笑みや硯洗ふ 尾崎喜美子 「こぼるる」饒舌。「母と娘の笑みや硯を洗ひをり」
○友と共に硯洗ひしときいづこ 尾崎 弘三 「いづこ」でなく、懐しいという気持ちであろう。
○丁寧に硯を洗ひ筆をとる 青柳 光江 「筆をとる」では散文化してしまう。
○教室の朱の墨洗ふ硯かな 中村みどり 「先生の朱墨の硯洗ひけり」
○故郷より送り来硯洗いけり 竹内 林書 「故郷の同じ硯を洗ひけり」
○弟と並びて洗ふ硯かな 吉田 久子 「かな」が安易。
○硯洗ふ悪筆の血を諾ひて 堀口 希望 「悪筆の血」とは洗硯の本意に近すぎる気がする。
○腕白の硯洗ふや神妙に 堀 眞智子 「硯洗やあの腕白が神妙に」。切る場所要注意。
○硯洗ふ亡父は明治生まれにて 大江ひさこ 「にて」で表現が緩むのが残念。
○また一つ夢広がりて洗硯す 岡村紀代子 どんな夢かで文法的に終止する。それ大事。
○面影をなぞりて硯洗ひをり 根本 文子 面影をもう少し踏み込んで描きたい。
 気を込めて洗ふ硯の硬さかな 三木 喜美 「気を込めて」「硯の硬さ」に客観性な乏し。
 手にずしり父の形見の硯洗ふ 千葉ちちろ 「ずしり」再考。「硯洗ふ父の形見の重さとも」
 習字を硯洗つて思い出す 小野 修司 「習字」捨てよ。「硯洗ひて思い出すこと ひとつ」
 硯洗ひ硯の喜びしみわたる 浜田 惟代 「硯の喜び」はちょっと無理な表現。
 墨の滓こすりて洗う硯かな 平岡 佳子 「こすりて」捨てよ。「墨の滓懐しき硯洗ひけり」
 帰国して求めし瓦硯洗いけり 礒部 和子 表現不安定。瓦硯はどこで買ったかを示したい。
 硯洗す景色浸みたる陸の窪 五十嵐信代 「景色」がわからなかった。乞教示。
 硯洗ひ幼き心の水となり 櫻木 とみ 「水となり」がわからなかった。
 面なめらか父のかたみの硯洗ふ 椎名美知子 「面なめらか」という思い入れを捨てよう。
 硯洗ふ祖父のぬくもり円硯に 谷  美雪 「円硯を洗ふ」と、省略を学ぶこと。
 やわやわと遺品の硯洗いけり 水野千寿子 「やはやはと」、わかるが、伝わらないゾ。
 硯洗ふ俄先生話し出す 岡田 光生 「俄先生」とは今ひとつ不確かな抽象なり。
【不知火】漁火がもたらす蜃気楼現象。記紀の時代から神秘現象とされて、筑紫の枕詞。
◎不知火や旅宿の膳の刺身烏賊 大江ひさこ 「旅宿の膳に」
◎同宿の湯に不知火を見たと聞く 安居 正浩 「見たといふ」
◎不知火や浜に舞台のふれ太鼓 吉田 久子 古風なれど…。
◎不知火や戦火に消えし母の兄 金井 巧 抒情の一般化に成功した。
○不知火を見る妻われにすがりつき 千葉ちちろ やや大げさでなれど…。
○亡き兄が呼ぶかに見ゆる不知火ぞ 天野喜代子 「不知火は兄にも見ゆる闇なりき」
○幾千年不知火燃ゆる海を見に 礒部 和子 素直なれば…。
○不知火を見むと誌上の旅をする 椎名美知子 「誌上の旅をまづ」
○不知火に見入る汀のシルエット 尾崎喜美子 素直なれば…。
○不知火の中に亡き母ゐたやうな 清水さち子 素直なれば…。
○不知火を見てより夢のあはかりし 堀口 希望 淡さより烈しさが似合うかも。
 行間に不知火探す夜の海 根本 文子 「行間」がわからなかった。
 宿ぬけて三つのお願ひ不知火に 谷  美雪 「願ひごとあり不知火に手を合はす」
 不知火は暗き灯りか強き火か 堀 眞智子 見ていることを前提に詠みたい。
 不知火や闇を従え迫り来る 水野千寿子 「不知火の」
 一文字走る不知火空と海 小出 富子 「一文字」と形容するはむずかしい。
 不知火の受けた名刺は筑紫社長 岡田 光生 「筑紫社長」と言葉で遊んでみた。
 不知火の声なき声に耳澄まし 三木 喜美 「声なき声のおそろしき」
 幻想の中で不知火チラチラと 織田 嘉子 「幻想の中」は正直だが、見たことを前提に。
 不知火を縄文人も見しやもし 浜田 惟代 「縄文人の見しごとく」
 荒海のほのかに見える不知火か 小野 修司 「荒海は不知火の立つ前ぶれか」
 不知火が燃えたこの浦風一つ 尾崎 弘三 「風一つ」の効果薄し。
 不知火を瞼にためて夢の中 中村みどり 「瞼に残し夢に入る」
 夢に見し故郷の不知火懐しき 竹内 林書 「故郷の不知火を見し昨夜の夢」
 不知火に科学忘れて叙情持つ 平岡 佳子 「不知火は不思議科学も感情も」
 不知火を人魂と見しくら闇き海 三島 菊枝 「不知火を人魂と見てすぐ戻る」
 誰が呼ばふ不知火なお燃え続く 五十嵐信代 感動の焦点を絞りたい。
 生ける間にめぐりあいたや不知火に 園田 靖子 句作は眼前を前提に。
 不知火を誰が呼びしか潮の風 櫻木 とみ 「潮の風」の効果薄し。
【夜 学】秋の夜長が灯火親しむ季節であるところから秋季とされる。幕末からある季題。
◎夜学子の残す仕事を引き継ぎぬ 金井  巧 「引き継ぎぬ」で人の世を描ききった。
◎苦も楽も夜学の道もあとわづか 礒部 和子 「あとわづか」と畳み込む実力に敬意。
◎あの席は今日空席の夜学かな 大江ひさこ 注釈の必要はあるまい。
◎校門ですれ違ふ彼夜学生 堀 眞智子 夜学生であることも魅力の一つというわけ。
◎月出でて明るくなりし夜学道 園田 靖子 やや古風なれど…。
○落日や蔦美しき夜学校 小出 富子 「落日の」がいい。
○夜学生意志の強さが足元に 三木 喜美 「足元」とは意表をついた。
○終電車めがけて走る夜学生 平岡 佳子 破綻なきこの表現を忘れずに。
○睡魔との戦に勝つ夜学かな 天野喜代子 注釈の必要はあるまい。
○おしやべりの列は駅まで夜学生 尾崎喜美子 「列が」
○夜学の灯並木道より見えはじめ 中村みどり 「並木の道を明るくし」
○肩凝りて欠伸一つの夜学かな 尾崎 弘三 「肩凝れば欠伸も一つ夜学の灯」
○球技する夜学の校庭煌々と 櫻木 とみ 「夜学の庭に灯をともし」
○夢は起業と言ふ夜学子の面構へ 堀口 希望 「夜学」の情を的確に捉えた。
○還暦に卒業証書夜学生 織田 嘉子 「夜学の灯」と少し離しませんか。
○夜学子の無口が教師見つめたり 安居 正浩 「見つめをり」かな。
○夜学子の球跳ね返すフェンスかな 岡村紀代子 何の球かわかるといい。
 繃帯を巻いて夜学の師の来たり 根本 文子 「繃帯を巻い」た理由がわからない。
 夜学終え今日の褒美は空のダイヤ 谷  美雪 「今日の褒美は」不要。
 夜学へと通う君の背『傘がない』  高本 直子 『傘がない』が読者に伝わらず。
 バイト終え菓子パンほうばる夜学生 水野千寿子 説明が過ぎた。
 夜学生家内と私父もなほ 岡田 光生 「我も家内もその父も」
 のめりこむ鉄剣銘文夜学かな 浜田 惟代 「謎多き鉄剣の銘夜学の灯」
 窓の灯にブルーの作業着夜学生 千葉ちちろ 「談笑のブルーカラーや夜学の灯」
 登らねばならぬ一層夜学かな 吉田 久子 観念的に終わった。
 夜学生燈火親しむ仲間かな 小野 修司 「燈火」と「夜学生」は近すぎるね。
 定刻をペタル踏み踏み夜学の子 清水さち子 「定刻」にはまだ他の言葉がありそうだ。
 夜学生睡魔こらへてペン運ぶ 三島 菊枝 説明に終わった。
 金髪の夜学少女ピアス光る 五十嵐信代 「金髪もピアスもまじり夜学の灯」
 独歩かと思ひし夜学友多く 椎名美知子 「孤独とは思ひ過ごしよ夜学の灯」
 刻忘れ弁論交わす夜学かな 青柳 光江 何を詠みたいか定まっていない。
 八十路婆通う夜学校町の隅 竹内 林書 何を詠みたいか定まっていない。
海紅切絵図
硯洗へばあらたまる重さかな 海 紅
不知火の姉妹仲良き寝息かな
不孝者なりしよ夜学生なりし 
掲示板
今回から投句の第一次ワープロ印字を吉田久子さんが引き受けて下さいました。
― 畢 ―
 
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