鳩の会の会報 25   ホーム
鳩ノ会会報25
兼題 薯莪・夜釣・草取
月よみのひかりを待ちて帰りませ山路は栗のいがのしげきに 
(良寛・はちすの露)
【薯 莪】アヤメ科の常緑多年草で、湿地群生を好む。花は白色で小形。漢名は胡蝶花。
◎薯莪の花道草食はぬ子の増えて 金井  巧 道草は子供の特権だったが。薯莪が淋しく美しい。
◎間借りして親子六人著峩の花 吉田 久子 「間借り」「親子六人」、薯莪の花によく似合う。
◎兄弟で父の墓参を著莪の花 濱田 惟代 兄弟での墓参はできそうで難しい。季のあしらいもよい。
◎この街に原節子老ゆ著莪の花  堀口 希望 原節子、薯莪の花の取り合わせに賛意。
◎著莪咲いて寺の由来を聞いてゐる 安居 正浩 「薯莪の花」と切ってはどうか。
◎レイテ戦語らず逝きて著莪の花 根本 文子 「逝きぬ」と切ってはどうか。
○廃校の薯莪美しく誰を待つ  礒部 和子 下五不要。誰を待たずともよい、美しい。
○霊園の群生薯莪にほどよい陽 五十嵐信代 「陽」は「日」でよい。
○待ち合わせ奇しくもそこに薯莪の花 小出 富子 「奇しくも」がくどい。
○石段の脇を段々シャガの花 水野千寿子 「脇を段々」が熟さず、要再考。
○逢ひ初めし頃薯莪の花咲きてをり 清水さち子 「咲けるころ」。
○滝音の響く山道薯莪の咲く 天野喜代子 「届く山道薯莪の花」。
○湧水を汲むひとが居て著莪の花 村上 輪樽 「湧水を汲むひと」は薯莪に付きすぎでは。
○薯莪の花空屋となりし友の庭 中村  緑 やや古風なれど実景ならん。
○水買うて煎茶を汲むや薯莪の花 大江ひさこ 煎茶は付きすぎならん。
○栗駒の人無き山辺に著峩の花 千葉  透 栗駒の景に具象が乏しい。
○暗き土手清楚なるシャガ一面に 織田 嘉子 「清楚なる」が言い過ぎ。
○薯莪の花湿地好きらしをちこちに 尾崎喜美子 薯莪の説明になってしまった。
○塔に沿ひ薯莪畳とは言ひ難く 三島 菊枝 薯莪を讃える句にしたい。
○控えめに居ること望み寺の著峩 三木 喜美 望むのは誰か、はっきりしたい。
○朝靄の木立に寄りてしゃがの花 岡村紀代子 寄るのは誰か、はっきりしたい。
  薯莪の花昨日の雨は今朝の露 椎名美知子 雨露に視点が移動してしまった。
  薯莪の花時期を過ぎたか姿なし 岡田 光生 姿のある句に仕立て直したい。
  著莪咲いて宇宙へ旅立つ深海魚 後藤由貴子 中七、下五が唐突。
  薯莪の花色白くして道のわき   尾崎 弘三 説明に終わってしまった。
  雨に薯莪艶なる葉かげ花つつまし 谷  美雪 説明に終わってしまった。
  薯莪咲いて木陰に白く涼やかさ 高木 久子 説明に終わってしまった。
  薯莪の叢過ぎて山頂めざしけり 櫻木 とみ 登山の句になってしまった。
【夜 釣】夜間の魚釣り。涼みを兼ねる愉しみがあり。
◎かたはらに若き妻ゐる夜釣かな 堀口 希望 涼みの心も生かして美しい。
◎夜釣する君の向こうに観覧車 高本 直子 付き添いの人の視線は時々遠くに。
◎何気なく夜釣りの魚篭に数を聞く 岡田 光生 巧むことなき「何気なく」に情あり。
◎沈黙の切なくなりし夜釣かな 根本 文子 上五、中七新鮮にしてリアル。
◎築港で泳ぎし後の夜釣かな 吉田 久子 「築港」が必要か否か再考。
◎水深し夜釣の鈴の強く鳴る 礒部 和子 「水深し」は理屈ゆえ減点。
○マッチ擦る横顔幽か夜釣人 千葉  透 「幽か」の意図がわかりにくし。
○ただ一人黒子のごとき夜釣人 濱田 惟代 「ただ一人」の意図がわかりにくし。
○夜釣り舟むかしの父は変わり者 村上 輪樽 中七、下五面白いが、季題との取り合わせ難解。
○黒鯛を待つてゐろよと夜釣人 谷  美雪 「夜釣人」よそよそしいので再考。
○灯台の閃光夜釣の親子浮き 櫻木 とみ 表現は合格、抒情は平明。
○灯火の瞬き遠し夜釣舟 三島 菊枝 表現は合格、抒情は平明。
○夜釣りする足元に波ひたひたと 織田 嘉子 表現は合格、抒情は平明。
○ほどほどの距離に並びし夜釣竿 中村  緑 表現は合格、抒情は平明。
○星空を時折見上げ夜釣かな 天野喜代子 表現は合格、抒情は平明。
○点滅す夜釣の人のたばこの火 金井  巧 表現は合格、抒情は平明。
○星明かり仰ぎて夜釣り漕ぎいだし 小出 富子 表現は合格、抒情は平明。
○竿の鈴鳴りてざわめく夜釣かな 水野千寿子 「ざわめく」が言い過ぎ。
 伊右衛門の夜釣りにかかる鯰かな 大江ひさこ 「伊右衛門」「鯰」物語りめきて難解。
 とほき日の秘密がひかる夜釣かな 後藤由貴子 上五、中七、思い入れ強くて難解。
 生臭き夜釣りや水の息吹きかな 五味田蕩稜 「や」「かな」併用を避けたい。
 灯を照らす闇をぐらりと夜釣船 岡村紀代子 何が「灯を照らす」のか。
 一言もなくて夜釣の人となる 安居 正浩 「一言もなくて」の関わり不明。
 今日も又顔馴染みおる夜釣かな 三木 喜美 「又顔馴染みおる」という表現熟さず。
 夜釣火の一つ消え二つ消え海の宿 椎名美知子 「海の宿」の存在感弱し。
 苫小屋の灯火消えて夜釣かな 尾崎喜美子 「苫小屋の灯火」の存在感弱し。
 一番星小天狗並ぶ夜釣舟  五十嵐信代 「小天狗」の存在感弱し。
 裏口に声のかかりて夜の釣 清水みち子 「裏口に」の存在感弱し。
 カンテラが波間に上げ下げ夜釣舟 尾崎 弘三 説明に終わってしまった。
 葦そよぐ霞ヶ浦に夜釣人 平岡 佳子 説明に終わってしまった。
 納涼船夜釣の海に紛れ入る 横田 公子 納涼の句になってしまった。
 癒されつ張り詰めて居る夜釣かな 堀 真智子 「癒され」いるのは誰か、はっきりしたい。
 夜釣火は水面に揺れて影二つ 高木 久子 「影二つ」とは誰か、読者に伝わるように。
 波止場の夜釣りは癖になりにけり 竹内 林書 まず語調を整える努力を。
【草 取】雑草を取ること。その人。
◎草取りて土の匂ひの二階まで 三木 喜美 「土の匂ひを」ではどうですか。
◎ふるさとに草引く母を置いてきし 根本 文子 「置いてきし」という表現に賛否あるか。
◎子の住まぬ二人の庭の草を取る 金井  巧 「子の住まぬ」という表現に賛否あるか。
◎心病めば慣ひとなりて草を引く 清水みち子 「慣ひとなりし」。
○雨上りゴミ出しついでに草取りを 水野千寿子 「雨上り」不要。
○雨音を帽子で数え草むしり 礒部 和子 帽子で数えるとはおもしろし。
○鈴なりを夢見て励む草むしり 三島 菊枝 表現は合格、抒情は平明。
○草取りや袋一つで間に合はず 五十嵐信代 表現は合格、抒情は平明。
○草取りや今日も脱帽根はり草 谷  美雪 表現は合格、抒情は平明。
○田草取りはねし稲の葉頬を切る 櫻木 とみ 表現は合格、抒情は平明。
○草取の終ひは草にへたり込む 安居 正浩 表現は合格、抒情は平明。
○草取や花の名前を尋ねられ 吉田 久子 表現は合格、抒情は平明。
○庭の草引きて一ぷく腰痛む 尾崎 弘三 表現は合格、抒情は平明。
○草を引く寄せて四つの膝小僧 後藤由貴子 表現は合格、抒情は平明。
○草取りて久方ぶりの土の色 高木 久子 表現は合格、抒情は平明。
○草取の少し残して夕茜 岡村紀代子 「草取を」。
○老医師の草引いてをり診療所 堀口 希望 「老医師」「診療所」やや古風なり。
○草むしる輪に笑ひ声美化運動 千葉  透 「美化運動」の存在感弱し。
○草取るや身ぬちを風の吹き抜ける 濱田 惟代 「身ぬちを」へのこだわりが観念的。
○こはごはと蛇を恐れて草取りす 織田 嘉子 「こはごはと」不要。「ある時は」ではいかが。
○紫外線さけて草取る朝の庭 天野喜代子 「さける草取り」。句は切ること。
○草取りし穴に熱湯かける婆 高本 直子 「熱湯かける婆」の存在感弱し。
○きじ鳩の巣立ち見とどけ草取す 堀 真智子 巣立ちか草取、テーマをどちらかに絞りたい。
 姑一人草引きながら門くぐる 椎名美知子 「門くぐる」の存在感弱し。
 草取やあのグランドにすっと立ち 五味田蕩稜 「すっと立ち」の存在感弱し。
 田草取り若かりし母遠くあり 小出 富子 「遠くあり」の存在感弱し。
 草むしり農婦のなかのナルシズム 村上 輪樽 「農婦のなかのナルシズム」難解。
 雨となり草むしりの指マニキュアす 大江ひさこ 雨のマニキュアの関係わからず。
 外泊に退院の目途や草を取る 岡田 光生 誰がどこで草を取っているのか。
 まあここは合鴨にまかそ田草取り 尾崎喜美子 「まあここは」の口語を捨てて再考。
 草取るや幼児かけよりのぞいたる 中村  緑 中七以後に季感が生きていない。
 草取りして身を草に絡まれたり 竹内 林書 「絡まれたり」は草まみれという意か。
 蛭の住む田の草取は遠くなり 平岡 佳子 「遠くなり」は今はないという意か。
海紅切絵図
雀来てをらぬつくばひ薯莪の花 海 紅
歩を伸ばす夜釣の人のゐるゆゑに
母を恋ふ十五分ほど草を引く
掲示板
しばらくお目にかかっていない方の名を見てなつかしい気がしました。お変わりなくお過ごしでしょうか
▼季題を説明する句が多いので、説明しない、つまり切るための稽古が必要かも知れません。たとえば、季題を必ず下五に置く努力をしてみるのも有効です。努力してみてください
▼句頭の◎印は俳句としてあるレベルにあると判断したもの。○印は言語表現として破綻のないもの。無印は言語表現の示す景色(姿)が不安定なものです
▼それにしても、会報の返送が遅くなりました。海紅の仕事が多いことが原因です。しかし、鳩の会は芭蕉会議の心臓部でしょうから、なんとか合理的に運ぶ知恵を出して、軌道に乗せたいと思います。具体的には投句原稿をワープロで整理する人、海紅の助手となってくれる人が必要です。尾崎さんにお願いするのが一番安易な方法ですが、御存じのように八面六臂の活躍をしている人ですので避けたいと思います。今はe-mailで送稿可能な時代ですので遠方の方でも可能だと思います。どなたかお名のりいただければ幸いです。
▼次回は硯洗・不知火・夜学です。九月末日〆切です
▼最後になりましたが、母の永逝に際して賜りました弔慰に衷心より御礼申しあげます。美しい山河に生きて天年を全ういたしました。みなさまには夏の疲れがでませんようお祈り致します。
― 畢 ―
 
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