白山句会会報 No.37   ホーム
白山句会 白山句会報第37号

  □ 日時  平成30年12月8日(土)
  □ 句会場 東洋大学白山校舎6号館6308教室
 
 今回の句会は先生にお骨折りいただき、久しぶりに東洋大学白山校舎の教室で行った。また恒例の忘年会を兼ねた懇親会も白山校舎近くの台湾料理店で行い、料理に舌鼓をうちながら会員間の懇親を深めた。懇親会には仕事で句会参加できない方や、卒論提出直後の学生さん二人も参加し句会を上回る会員の参加があった。今回句会場が教室であったため句会時間が、たっぷり4時間とることが出来た。このため試みとして、従来の句会方式から全句記述方式に変えてみた。この方式は、出句されたすべてが手元に残り主宰選や互選で、どの句を誰が選し、どのような句が漏れたが分かるという特徴がある。白山句会は句会場が転々とし、時間的な余裕もないことからコピー方式を多用してきた。今回の方式は選句が目視と記述の二点で選することも大きな特徴で選句眼をより深めることができる。今後も時間的に余裕がありそうな句会において採用してみたい。 


〈 俳 話 少 々 〉

 今回は事前調整が付きませんでした。

<以上、伊藤無迅記>


〈 句 会 報 告 〉
*一部作品については作者の意図をそれない範囲で原句表現の一部を改めた句があります。
*また、海紅選は互選点数に含まれておりません。

☆ 海紅選 ☆

※歴史的仮名遣いに統一しました。

台風は金木犀の香も奪ふ 春代
万歩計つけて境内日向ぼこ
しよんぼりに元気を入れる日向ぼこ しのぶこ
目を閉ぢて想ふ平成日向ぼこ つゆ草
中庭のベンチが居場所日向ぼこ 真美
平成も昭和も包み山眠る ひぐらし
床上げの大根おじや完食す 無迅
カラオケに賛美歌まじる師走かな ムーミン
立ち話口を挟むな冬の蝿 智子
黄金の銀杏愛児を高い高い 由美
 《評》下五の字余りはいただけませんが、これは効果的です。
老犬の毛を梳いてやる聖夜かな 由美
日記買ふ雑踏のなかすりぬけて 山茶花
 《評》「なか」を捨てたいが、素直な点をいただきました。
つくばひに鳩の立ち寄る小春かな 馨子
秋田よりラインで届く雪景色 馨子
鉄橋を渡るや日ごと増える鴨 月子
七輪を納屋から庭へ落葉焚く 月子
歳晩にひとつ叶ひし願ひごと 香粒
ゆきひらの粥よろこびし母の風邪 香粒
年の瀬に起重機うなる梨畑 喜美子
開戦日平和な町に人の波 喜美子
信金マンの重きペダルや十二月 ひぐらし
姑の背のこんもりまるめ冬の朝 右稀
 《評》「姑」をハハと読ませていましたが、「母」と磊落に処理する姿勢も必要です。
小春日やうどん二玉ゆで上がる うらら
廃線の決まりし鉄路年の夜 瑛子
 《評》「廃線の決まりし鉄路」に詩があって、「年の夜」が邪魔になる。他によい季題がありそう。
手繰り寄する学舎の日々師走かな つゆ草
 《評》「手繰り寄する学舎の日々」が観念的なので、「師走かな」でなく目に見える季題が似合う。
寄せ鍋を家族で囲む冬ぬくし 春代
 《評》季重ねですが、抒情豊かなところをとりました。



☆ 互選結果 ☆

7 かくれんぼベンチの裏の水洟 智子
5 平成も昭和も包み山眠る ひぐらし
5 手繰り寄す学舎の日々師走かな つゆ草
5 山茶花や月命日を毀れ継ぐ 無迅
4 つくばいに鳩の立ち寄る小春かな 馨子
4 床上げの大根おじや完食す 無迅
3 さまざまな不如意持ち越す師走かな ムーミン
3 目を閉ぢて想ふ平成日向ぼこ つゆ草
3 酔醒めや軒打つ冬の雨の音 悠児
3 退職の後の冬日を心待ち 海紅
3 雲間よりたまご色した冬日かな うらら
3 秋田よりラインで届く雪景色 馨子
3 小春日やうどん二玉ゆで上がる うらら
3 歳晩にひとつ叶ひし願ひごと 香粒
3 ほつほつと旧居の影よ一葉忌
3 推敲の二転三転かじかむ手 光江
3 譲らるる席のぬくさよ冬の旅 喜美子
2 鉄橋を渡るや日ごと増える鴨 月子
2 薄日差し燃ゆる残り葉一葉忌 ふみ子
2 街路樹の電飾ゆらす寒鴉 光江
2 カラオケに賛美歌まじる師走かな ムーミン
2 花八つ手寡黙の父の笑顔かな 光江
2 巫女のリップと熊手輝く夜空かな 由美
2 老犬の毛を梳いてやる聖夜かな 由美
2 七輪を納屋から庭へ落葉焚く 月子
2 池釣りの子らの肩にも木の葉散る 真美
1 遠峰や駒子の像の雪囲ひ ひぐらし
1 信金マンの重きペダルや十二月 ひぐらし
1 姑の背のこんもりまるめ冬の朝 右稀
1 廃線の決まりし鉄路年の夜 瑛子
1 家普請の槌音忙し十二月 悠児
1 ブレーキに枯葉が舞いし交差点 和子
1 浅草や静止芸にも風小春
1 しぐるるや山房の燈にぬるる人 浩司
1 流れ来て冬雲うたふレクイエム 浩司
1 立ち話口を挟むな冬の蝿 智子
1 ランニングシューズ色さまざまに時雨くる 梨花
1 綿雲の切れ目光の小鳥くる 梨花
1 冬ざれや灯の先の夜の雲 智子
1 冬うららお茶などいかが声かかり 山茶花
1 引き潮の跫音しづかに冬の浜 つゆ草
1 薪ストーブショパン弾く子の美しき 瑛子
1 神立たる黄金眩し大銀杏 瑛子
1 ゆきひらの粥よろこびし母の風邪 香粒
1 銀杏飛ぶ空に散らして風通る 静枝
1 黄金の銀杏愛児を高い高い 由美
1 冬の日にまぶたを押され目覚めけり 梨花
1 開戦日平和な街に人の波 喜美子
1 寄せ鍋を家族で囲む冬ぬくし 春代
1 敷松葉夜半の雨の匂ふよう

 


☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地先生、大江月子、江田浩司、水野ムーミン、大石しのぶこ、三木つゆ草、
月岡糀、梶原真美、鈴木松江(改め香粒:かりつ)、青柳光江、谷 美雪、
尾見谷静枝、山崎右稀、村上智子、尾崎喜美子、西野由美、小出山茶花、
平塚ふみ子、備後春代、根本梨花、植田ひぐらし、伊藤無迅
(以上、22名)

☆欠席投句者☆ (敬称略、順不同)
柴田憲、礒部和子、宇田川うらら、佐藤馨子、加藤悠児、谷地元瑛子
(以上、6名)

<以上取りまとめ、月岡 糀>


<海紅先生のお話>  

 句会席上「江田浩司と俳句」という題のプリントが参考配布された。これは海紅先生が、ある詩歌誌(『北冬』No.018号、江田浩司特集号)に寄稿したものである。江田浩司さんは本会創立時の会員で世話人であるが、実は短歌界で活躍する歌人で評論家でもある。
 また、ある会員から芭蕉会議サイトの過去の掲示板から消失した先生の書き込みの内容についてのお尋ねがあり、この二点についての、お話があった。以下、その中で俳句に関わるものについて要点をまとめました。
◆ 江田浩司特集号について
・ 安保博史先生がこの「江田浩司と俳句」を一見して、即座に「おつ、談林だね」と評したが、言い得ていると思う。
・ 貞門俳諧を徹底的に排除して談林俳諧が流行したように、流行はそれまでの流行をしりぞけ、「伝統なんか糞くらえ」という文学史を作るが、安保さんは江田さんの句にその新しさをかぎとったのだろう。
・ 案の定、江田さんは俳句修行を経て短歌誌「未来」に属し、岡井隆氏の前衛短歌の世界に入るが、そこでは伝統を継ぐのとはまったく別の苦労があったはずである。
・ 岡井氏は短歌、詩、文芸評論と幅広い活動で有名であり、江田さんの活動も、韻文、散文とまことに広範囲にわたる。
・ 先生の話をうけて、江田さんから「詩人、歌人、俳人というふうに、日本では詩歌ジャンルが細分化しているが、外国にそんなところは一つもない。もっとクロスオーバーしてよいのではないか」という発言があった。
・ 先生の回答は、短歌と俳句の二つをたしなむことを排除しないが、できればどちらかに絞るべきだろう、というようなことを虚子が言っている。芭蕉の「軽み」の追求がそうであるように、日本の文芸は自己表現ではなく、「道」の世界である。歌道・茶道・書道と同じように、俳句(俳道)を通して自己を磨く(育てる・悟る・よく生きる)という性格を持っているので、自分が選んだ「道」にこだわる。そこが諸外国、あるいは明治以降の詩歌との違いではなかろうか、というものだった。

◆ 掲示板の消えた内容について
・ 記憶は定かでないが、芭蕉は日本に「俳文」というジャンルを確立させようとして果たせずに死んだという話ではなかったか。西欧や中国には散文詩が存在する。
・ 『おくのほそ道』も俳文に含まれるが、その俳文とは散文詩に近いもの。芭蕉はそれを完成させ、『猿蓑』などの撰集に似た形で俳文集を編みたかったが、納得できるものが少なく断念した。
・ わずかに残った完成品は、自分の人生を総括する『幻住庵記』くらいなものか。
・ こうした意味では、芭蕉もまた江田さんの挑戦に近いエネルギーを持っていたともいえる。

<以上、とりまとめ 伊藤無迅>

< 了 >


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