白山句会 白山句会報第35号
□ 日時 平成30年6月9日(土)
□ 句会場 東洋大学文学部会議室
今回の句会場は久しぶりに白山キャンパスに回帰し、吟行は白山周辺の千駄木、六義園、小石川植物園などを自由に散策してもらうことにした。句会直前、世話役二人が急な不祝儀で欠席となり句会進行や懇親会での支障を心配した。しかし主宰、ならびに会員の臨機応変の対応と協力で盛況裡に終えることが出来た。実はこのような事態を予想し、予め世話役の各役割を整理し、その上で有志の方に分担をお願いしておいた。このことが早くも功を奏した形となった。今後ともこの体制を維持し、チームワークとフットワークをブラシアップして行きたい。
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〈 俳 話 少 々 〉
今回は俳話をお休みし、「句会の方法」というプリントを配布して、シンプルで古典的な運座の知識をおさらいしました。清記・選句・披講のすべてが、他者の句に学んで各人が向上するための装置という認識の再確認でした。幹事や世話人の句会準備の軽減につながり、全員が最後まで主体的にかかわる雰囲気の醸成に役立つと思いますので、参考にしてください。( 海紅 )
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〈 句 会 報 告 〉
* 一部作品については、作者の意図をそれない範囲で原句表現の一部を改めた句があります。
* 海紅選は互選点数に含まれておりません。
☆ 海紅選 ☆
紫陽花もくたびれてをり人いきれ |
ムーミン |
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蝦蟇鳴けば親子の足の止まりけり |
つゆ草 |
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夏木立グルッとバスで団子坂 |
智子 |
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緑陰や木洩れ日まろく肩に背に |
静枝 |
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夏シャツの何より白く歩道行く |
右稀 |
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老鴬に力もらひてまた一歩 |
光江 |
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鴎外の坂の今昔梅雨に入る |
月子 |
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究めたる魔球を放つ涼しき手 |
むらさき |
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草いきれ残し立ち去る草刈機 |
春代 |
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薔薇の名を三つ覚えて園出づる |
山茶花 |
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☆ 互選結果 ☆
6 |
蝦蟇鳴けば親子の足の止まりけり |
つゆ草 |
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6 |
喜々として泥の手かざす田植の児 |
ムーミン |
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5 |
この先に母の生家や栗の花 |
馨子 |
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5 |
青ほほづき旧家に昏き書生部屋 |
無迅 |
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5 |
ゴーヤ苗二本競はせ二人住む |
海紅 |
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4 |
緑陰や木洩れ日まろく肩に背に |
静枝 |
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4 |
古本の匂ひ増したる入梅や |
千寿 |
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3 |
夏シャツの何より白く歩道行く |
右稀 |
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3 |
病室や田植談義の祖父と孫 |
泰司 |
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3 |
陰日向行きつ戻りつ黒揚羽 |
千寿 |
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2 |
花いばら棘にもそつと触れてゐる |
しのぶこ |
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2 |
隠居所へ花南天の零れ路 |
無迅 |
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2 |
あめんぼと降り出す雨と橋渡る |
松江 |
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2 |
蚊遣火を其処此処に置く古屋敷 |
松江 |
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2 |
半夏生時をほんのり乗せてゐる |
貴美 |
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2 |
ががんぼやオレンジ色の旧家の灯 |
智子 |
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2 |
ぬか漬けの茄子庭に摘む薄暮かな |
月子 |
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2 |
昼顔や顔ぶれ揃ふ定食屋 |
宏美 |
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2 |
愚痴こぼし苺をつぶす昼休み |
和子 |
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2 |
時止どめ旧家の庭の青葉かな |
貴美 |
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2 |
自動ドアに逃げ込んで来る暑さかな |
海紅 |
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2 |
草いきれ残し立ち去る草刈機 |
春代 |
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1 |
庭園の緑息づく梅雨晴間 |
右稀 |
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1 |
日盛りの電車空きをりうとうとす |
ムーミン |
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1 |
寺町や露地に顔出す白あぢさゐ |
貴美 |
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1 |
栗の花打ち上げとせしクラス会 |
喜美子 |
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1 |
立葵そば粉の香る交差点 |
真美 |
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1 |
詩心を呼び起こされし風青葉 |
つゆ草 |
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1 |
病葉が迷ひ残して落ちにけり |
しのぶこ |
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1 |
梅雨の道タンゴのリズム車椅子 |
美雪 |
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1 |
軒下で客を待ちたる蟻地獄 |
千寿 |
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1 |
果樹園の消毒忙し走り梅雨 |
喜美子 |
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1 |
鴎外の坂の今昔梅雨に入る |
月子 |
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1 |
夏木立グルッとバスで団子坂 |
智子 |
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1 |
突きあたり若葉ゆらゆらガラスかな |
瑛子 |
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1 |
紙飛行機のごと進め燕の子 |
真美 |
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1 |
学び舎へ吾だけのみち青蛙 |
宏美 |
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1 |
剣道着まとふ娘キリリ梅雨晴間 |
つゆ草 |
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1 |
竹垣の庭に置かれし蚊遣かな |
真美 |
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1 |
朝戸出や籬にこぼる花空木 |
憲 |
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1 |
遠き家の田植手伝ふ母若し |
山茶花 |
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1 |
薔薇の名を三つ覚えて園出づる |
山茶花 |
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1 |
究めたる魔球を放つ涼しき手 |
むらさき |
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☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、水野ムーミン、山崎右稀、梶原真美、鈴木松江、村上智子、高橋千寿、
三木つゆ草、谷地元瑛子、大江月子、尾崎喜美子、谷美雪、眞杉窓花、丹野宏美、
尾見谷静枝、荒井奈津美、相澤泰司、大石しのぶこ、荻原貴美(以上、19名)
☆欠席投句者☆ (敬称略、順不同)
青柳光江、礒部和子、伊藤無迅、小出山茶花、佐藤馨子、柴田憲、西野由美、
備後春代、むらさき(以上、9名) |
<海紅先生の俳話要諦>
「わくわく題詠鳩の会会報85」(平成30年5月末締切分)の序に「俳句は重量制限のある体重計である。無駄な肉を落とさなければ計量はむずかしい」と書いたら、すぐに反応があったことに感謝する。先日、5歳の女児が両親の虐待で死に追いやられたニュースが報じられた。命の限りを尽くして女児が書いた文章は涙なしで読めなかったが、併せて「ひらがな」の重みを再認識させられもした。だが、俳句という17音の器にあのすべてを盛りつけることは不可能である。そこで、懸命に生きてきた誠実さと日本語力によって、17音で計量出来るまで、無駄を省かねばならない。省けば省くほど、多くの読者を得られることを信じて、日々の仕合わせを追究してほしい。
<以上のとりまとめ、谷地海紅、伊藤無迅> |
<白山句会ミニ吟行記>
6月の白山句会は、吟行地を東洋大学の近隣一帯とし、旧安田邸、六義園、小石川植物園などがあげられた。掲示板で予め案内があった各施設の開館日、開館時間、乗り物案内などに助けられ、先ず安田邸へ向かう。それほど広くはない建物にしては樹木の多い屋敷である。使用人無しでは不自由な生活と想像された。帰り際、受付傍に置いてある品物に目を留めると智恵子の切り絵の手ぬぐいという。隣家が高村光雲、光太郎の家であったと聞いて裏手に回ると、残念であるが建物は丁度取壊し終わって、薄いベニヤ板など廃棄を待つばかりに積まれてあった。「東京には空がない」と言って毀れていった智恵子の心を偲んだ。
再び「びーぐる」に乗り六義園に向かう。この庭園は綱吉のお気に入りで、年に10回以上も訪れたようだ。(上野洋三校注『松陰日記』岩浪書店、平成16年7月)
当時のしきたりでは、来られれば返礼に出向くので相当な物入りであったことが克明に記されている。大奥などの費用もかさみ幕府の経済が逼迫したのも頷ける
園内は雨の予報のせいか珍しく人が少ない。吹上亭で氷を浮かべた甘酒を頂きながら、ヒヨドリが仲良く遊ぶのを飽かずに見る。雨が落ちてきたので、愛らしい和紫陽花に名残を惜しみながらも立ち去った。
別の日、小石川植物園を覗いたが、暑い日で薬草の畠はパス。森の奥へも一人では入れず、木陰のベンチでお握りを食べて帰った。帰り道に白山2丁目のバス停を見かけ、上野行きバスに乗り春日駅までわけなく戻れたのは収穫であった。
句会当日の会場は久しぶりに6号館4階、文学部会議室(お膝元の特権!!)既に大勢の顔が揃っていた。
先生から「句会の方法」という大事なことが全部書かれたプリントをいただき、さらに分かりやすい説明で胃の腑に落ちた。つまり句会とは、自分の名前が書けること、他人の句を書けること、自分の句を読み上げられたら返事ができること、また互選では選句眼の重なりが大事であることなど句会における肝心かつ要のお話であった。
今、俳句を親しむ人は増えているかも知れないが、私達のように俳句の本道に繋がるお話を主宰から聞けると言う有難さを忘れてはならないと強く思った。
懇親会では真美さんの乾杯の音頭に芭蕉会議の未来を思い、今日も良い会に出会えた喜びを胸に家路についた。
<平成30年6月14日 鈴木松江>
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< 了 >
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