白山句会 白山句会報第23号
□ 日時 平成28年2月14日(日)、14時00分〜17時
□ 句会場 喫茶室「ルノアール」巣鴨店、貸会議室(2F)
今回も巣鴨駅前の喫茶室「ルノアール」の貸会議室での句会となった。今年始めての白山俳句会で18名の参加があった。欠席投句者が7名なので、25名の句会ということでもある。「ルノアール」巣鴨店の会議室は最大16名なので、今後は20名前後の会議室の確保が必要となりそうだ。世話人としては嬉しい悲鳴である。今回も午前中に先生の研究室で十周年記念誌の編集会議を行なった。編集委員の皆様には午前午後にわたり誠にご苦労様でした。また前回も同じでしたが、先生には神経痛治療中にも拘らず長時間のお付き合いを頂き誠にありがとうございました。
次回は4月9日(土)、丁度桜の季節にあたります。何方様か、ご当地のお花見を兼ねた吟行をお世話下さる方が居りましたら是非お申し出下さい。
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〈 俳 話 少 々 〉
今回は根本梨花さんから「追悼句(弔句)」についてお話がありました。要約すると以下の通り。
父が亡くなった時、沢山の方々から追悼句をいただいた。その追悼句から、私の知らない父の一面や、幸せな俳句人生を知った。特に父がその大半が戦死したレイテ戦の生き残りであった事実には驚いてしまった。戦争について、父は何も語らなかったからである。それが俳句というものを見直す機会になり、それまで平凡と思っていた父の俳句がけっしてそうではないとわかってゆく。抑制した表現という俳句の特性がわかるようになったのである。以後、私は知人の訃報に接したときには出来るだけ追悼句を贈ることにしている。
抑制した表現は例えば次のような追悼句によくあらわれている。
あるほどの菊投げ入れよ棺の中 漱石
生涯にまはり灯籠の句ひとつ 素十
親しい者を失って万感の悲しみに沈んでいるはずなのに、それを露骨に言葉にしない。だからこそ伝わる惜別や追悼の思い。俳句という十七音の詩を詠む魅力はそこにあると思う。俳句は「数百年にわたって堂々たる固有の歴史を築いてきた、長い伝統の上に立つ詩形」(大岡信「俳句形式の魔力」『現代の俳句』)だと思う。
<以上、伊藤無迅記>
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〈 句 会 報 告 〉
* 一部の作品については、作者の意図をそれない範囲で原句表現の一部を改めたものがあります。
* 海紅選の句は互選点数に含まれておりません。
☆ 海紅選 ☆
蜷の道幼き頃の通学路 |
文子 |
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紅梅の古木の苔に空映えて |
こま女 |
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追福碑へ一輪づつの梅若木 |
松江 |
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あたたかや庭の土さへ甘き香に |
ムーミン |
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春雨に少し風吹く竹林 |
月子 |
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制服の仮縫ひすんで春浅し |
山茶花 |
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遊船のつぎつぎ降り来犬ふぐり |
憲 |
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許し合ふ余生となりぬ蕗の薹 |
つゆ草 |
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春泥や犬叱りつつ洗ひやる |
ちちろ |
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庭掃除小さき芽吹きをさけて掃く |
美知子 |
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文末に訃報の知らせ寒見舞 |
無迅 |
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赤信号滅法長き余寒かな |
ちちろ |
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立春の空なり雲のコッペパン |
由美 |
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春一番浮かびし一句飛ばされし |
つゆ草 |
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臨済宗円覚寺派の梅の花 |
酢豚 |
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☆ 互選結果 ☆
7 |
制服の仮縫ひすんで春浅し |
山茶花 |
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7 |
風花やお伽噺のその続き |
うらら |
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6 |
戸袋のほのかに匂ふ春の闇 |
酢豚 |
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5 |
春浅や貝の刺身の砂を噛む |
無迅 |
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5 |
春泥や犬叱りつつ洗ひやる |
ちちろ |
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5 |
口笛は大人顔負け草青む |
つゆ草 |
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4 |
観音を洗ひたる手が梅に伸ぶ |
海紅 |
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3 |
香煙の向きを変へたる春の風 |
海紅 |
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3 |
冴返る名もない街の芭蕉塚 |
窓花 |
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3 |
許し合ふ余生となりぬ蕗の薹 |
つゆ草 |
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2 |
臨済宗円覚寺派の梅の花 |
酢豚 |
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2 |
乳母車ほつぺも服も春の色 |
喜美子 |
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2 |
蜷の道幼き頃の通学路 |
梨花 |
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2 |
良きことがありそな予感春夕べ |
ふみ子 |
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2 |
春一番浮かびし一句飛ばされし |
つゆ草 |
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2 |
春障子親しき人の声聞こゆ |
貴美 |
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2 |
春遅き菜炊く湯気の厨かな |
貴美 |
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2 |
遊船のつぎつぎ降り来犬ふぐり |
憲 |
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1 |
独り居のいつの程にか寒昴 |
無迅 |
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1 |
文末に訃報の知らせ寒見舞 |
無迅 |
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1 |
日溜まりの固さほぐれし木の芽かな |
喜美子 |
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1 |
飛び梅の白雲に乗り巣鴨まで |
梨花 |
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1 |
香に満ちてクレソン洗ふ雪解水 |
梨花 |
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1 |
腰高の障子ある家牡丹の芽 |
月子 |
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1 |
懐中に富くじありて出開帳 |
月子 |
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1 |
有名人らほとけの庭に豆をまく |
ムーミン |
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1 |
川畔の河津桜がただうれし |
美知子 |
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1 |
春の雲右へ右へと急ぎをり |
うらら |
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T |
春一番眇すがめの会釈かな |
ひぐらし |
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1 |
鉄鉢に春一番の嵐かな |
ひぐらし |
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1 |
追福碑へ一輪づつの梅若木 |
松江 |
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1 |
杜に合ひまた巡り合ふ初明り |
松江 |
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1 |
窓拭くや背に春昼の影よぎる |
松江 |
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1 |
立春の空なり雲のコッペパン |
由美 |
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1 |
資材場の錆鉄板にうすごほり |
由美 |
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1 |
雪解けや狂詩曲なる水の音 |
むらさき |
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1 |
黒猫の妖気と白き梅の香と |
むらさき |
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1 |
路地奥の梅の赤さに立ち止まり |
奈津美 |
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1 |
梅の木を目指して走る鳥の影 |
しのぶこ |
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☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、尾崎喜美子、根本梨花、千葉ちちろ、水野ムーミン、大江月子、小出山茶花、中村こま女、鈴木松江、椎名美知子、平塚ふみ子、宇田川うらら、植田ひぐらし、三木つゆ草、西野由美、荻原貴美、眞杉窓花、伊藤無迅 (18人)
<欠席投句者>
安居酢豚、柴田憲、礒部和子、谷地元瑛子、むらさき、大石しのぶこ、荒井奈津美(7名)
<以上、三木つゆ草記>
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☆ 総評 ☆
冒頭、2月5,6日に行なわれた日立市の「たしなみ句会」との合同句会出席の報告があった。要約すれば「たしなみ句会」は発足一年になるが、その成長の早さに驚いていること、また「たしなみ句会」の皆さんの熱心さも心打たれるものがあったということである。なお、関連して、芭蕉会議の白山句会は発足の経緯から座談と親睦を優先してきたが、今年は10年の節目の年なので、そろそろ俳句がうまくなってほしいという話もあった。
そのために二つのことが提案された。一つは投句前のマナーで、句作は集中力の産物だから、投句締め切り前は推敲中の人の邪魔にならないよう私語を慎み、自分も集中して推敲すると言う姿勢を忘れないということ(披講以後の時間でたっぷりと座談を愉しむ)。二つ目は、句を詠む力に等しいといわれる選句力を養うこと。この日を例にとれば、出席者18人が選ぶ、18点の句が出てくるような句会をめざしてほしいという話であった。そのとき、白山句会全体の選句眼が一定し、メンバーの水準が高いことを証明することになる。
さらに、句作と選句の際に、平明と平凡の違いがわかるようになってほしいという話が付け加えられた。つまり、平凡な句は読者の心を打たないが、平明な句は読者の心に入り込む。主観(小我・私意)をそのまま詠んでも平凡に終わる。周囲の景物、とりわけ季題(季語)を借りて主観をコントロールし、解釈の半分は読者に預けたいという話で結ばれた。
<以上、伊藤無迅記>
< 了 >
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