白山句会会報 No.21   ホーム

白山句会 白山句会報第21号
□ 日時   平成27年10月3日(土)、14時00分〜17時
□ 句会場  喫茶室「ルノアール」四谷店、貸会議室(4F)

今回は喫茶店の貸会議室を句会場に利用する、白山句会初めての定例句会となった。高齢化社会となり様々な趣味グループやサークルが増え、どこも公共施設の会議室は確保が困難となっている。今後もこのようなケースが増えるものと思われる。今回、会議室や懇親会の店をネットで予約したが、わずか小一時間PCの前に座って出来た。つくづく便利な時代になったと思う。反面、便利を買えばコストが嵩むのは資本主義の原則、会場費などの負担が嵩むことになる。またネット写真は、実際より数倍綺麗に見えるので誤魔化され易い。今回も会議室と懇親会の場所の雰囲気が気になっていたが、まさか会議室のビルにエレベーターがないことは予想もしなかった。今後は電話で確認するなど留意したい。
しかし句会場が変わると、予期せぬ効果もあるようです。
       駅頭の今浦島や秋暑し       ひぐらし
日頃都心に出ることがない方には、変貌著しい駅前光景に驚いたり、ちょっと裏通りに入れば昔の懐かしい記憶が蘇えったりと、脳にとても良い刺激があったようです。


〈 俳 話 少 々 〉

   今回は世話人の怠慢で、何方かに俳話のお願いをしておくことを、句会前日まで失念していました。そこで急遽、伊藤から以下のような話をさせて戴いた。
・ 俳句を詠む際に、固有名詞を詠み込む場合がある。特に吟行などでは、その土地の寺社や土地名を詠みたいことがある。その際、その固有名詞は、果たして読み手にどのように解釈されるのであろうかと悩むことがある。
・ 全国的に知られている例えば「大井川」「東大寺」などの固有名詞であれば、読み手とある程度イメージを共有し易い。しかし土地固有の名称であれば、その印象は多分土地の人にしか一般には分らない。
・ このため私は、新聞・俳句雑誌への投稿や、雑詠句として通常の句会〈吟行句会ではなく〉に出句する際は、その土地固有のものは避けた方がよいと考えている。
・ 吟行で、その土地で呼ばれている○○川や○○山等の固有名詞を詠みたい場合、私は先ず一般語、例えば「秋の川」、「秋の山」あるいは単に「川」「山」で詠めないかを考えるようにしている。
・ この姿勢は「作品に普遍性を与える」という先輩俳人の教えの影響が強い。(*)
・ ただ、私は過去の吟行で「物見山」「狼煙山」という土地の固有名詞を使ったことがある。これは呼び名が比較的各地で見られる地名であること、またすでに呼び名そのものが印象鮮明であること、さらに呼び名にある程度の普遍性があると判断したためである。(*)
・ 勿論これは私の考えで、吟行句会では、むしろ土地の固有名詞を詠み込み臨場感を出すという考え方もあると思う。 
注):文末の〈*〉印は、当日述べたものではなく編集時の追記です。

<以上、伊藤無迅記>


〈 句 会 報 告 〉
* 一部の作品については、作者の意図をそれない範囲で原句表現の一部を改めたものがあります。
* 海紅選の句は互選点数に含まれておりません。

☆ 海紅選 ☆

秋雨や今宵の猪口は青備前 ふみ子
ひとつこと吾成し遂げて秋澄めり 馨子
銀座からグランルーフへ秋日和 瑛子
明月や夫婦茶碗と夫婦箸 つゆ草
誰彼のをりふし見ゆる送り盆
栗飯の栗が顔出す炊飯器 酢豚
秋の日や会ひたき人に会ひに行く ひぐらし
秋日和昔ながらの談話室 こま女
いわし雲買物かごに今日の菜 月子
下校生群れては崩る柚子は黄に 無迅
眠り方忘れた人や月仰ぐ しのぶこ
木犀の香に戸惑ひし薄暮かな ふみ子
駅頭の今浦島や秋暑し ひぐらし

☆ 互選結果 ☆

6 来し方に似てほろにがし菊膾 ムーミン
5 やつさもつさの火宅の上を月通る ム―ミン
5 筆談で酒酌み交はす虫の秋 無迅
4 下校生群れては崩る柚子は黄に 無迅
3 秋風の句碑指さして沙弥やさし 海紅
3 秋雨や賽銭こつとはづれ落つ 月子
3 秋雨や今宵の猪口は青備前 ふみ子
2 ひかげりてよりの碑文のさはやかに 海紅
2 駅頭の今浦島や秋暑し ひぐらし
2 尖塔の小さきクロスや秋の雲 ひぐらし
2 眠り方忘れた人や月仰ぐ しのぶこ
2 明月を言はで犬引く人二人 月子
2 コンビニの零るる灯虫の闇 無迅
2 ひとつこと吾成し遂げて秋澄めり 馨子
2 栗飯の栗が顔出す炊飯器 酢豚
2 秋の日や会ひたき人に会ひに行く ひぐらし
2 野放しの跡地華やぐ千草かな つゆ草
1 一握の秋思の如く芭蕉句碑 海紅
1 銀座からグランルーフへ秋日和 瑛子
1 月映えや水仕すませて揃ふ顔 瑛子
1 いわし雲買物かごに今日の菜 月子
1 雲切れし一升瓶の花穂かな 喜美子
1 原つぱに吾亦紅描く母の居て こま女
1 木犀の香に戸惑ひし薄暮かな ふみ子
1 捨てがたく残りし菊を紙コップ 和子
1 妻の書と娘の位牌あり月見会 松江
1 十六夜や対屋にいつしか昇り来ぬ 松江
1 爽籟や無音奏でる須賀神社 奈津美
1 秋彼岸あの夕映えの果てにあり 馨子
1 蜉蝣や空へ空へと茜雲 こま女
1 法螺の音の峰々渡る秋の風 つゆ草
1 明月や夫婦茶碗と夫婦箸 つゆ草

☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、安居酢豚、伊藤無迅、尾崎喜美子、水野ムーミン、大江月子、中村こま女、植田ひぐらし、
鈴木松江、谷地元瑛子、西野由美、平塚ふみ子、荒井奈津美、三木つゆ草 (14人)
<欠席投句者>
柴田憲、礒部和子、佐藤馨子、むらさき、大石しのぶこ(5名)

<以上、三木つゆ草記>


☆ 合評 ☆

 皆さんから選句を発表して戴いたあと合評に入った。合評では毎回、皆さんから好きな句を鑑賞してもらうようにしている。しかし高得点句に集中する傾向があったので、今回は趣向を変え、自分が選んだ句の中から四番目、又は五番目に選んだ句に付いて鑑賞して戴いた。その中で話題となった数句について以下紹介する。

・ やつさもつさの火宅の上を月通る
「やつさもつさ」の意味は語感から、だいたい分るが聞きなれない言葉である。作者によれば、関西の方でよく使われる言葉とのことである。広辞苑によれば、もともとは労働の際の掛け声らしく「大勢よってたかってのとりこみ」とのこと。
確かに確かに・・・である。
・ 明月を言はで犬引く人二人
雲切れし一升瓶の花穂かな
二句とも、月見を扱った句であるが、月が句意から消えているという大変面白い句である。しかし、やはり月の本意から外れてしまった分、句の迫力が削がれてしまったようだとの評が多かった。
・ 秋雨や今宵の猪口は青備前
「青備前」が動くのでは、という意見があった。通常「動く」は、季語を指して言うことが多いが、この場合は逆に「青備前」である必然性についての意見であったと思う。ひとしきり意見が出されたが、句意からして晩酌愛好家が少々鬱陶しい秋雨であるが、数ある猪口の中から青みがかった猪口を取り出し一杯やるか、という弾んだ気持ちが伝わって来るという鑑賞が多かった。私も「青備前」なるものが分らなかったが、青みがかった備前焼の猪口と秋雨の取り合わせは悪くないと思った。

 総評に変えて先生から以下の話があった。
 今回は、興味深い句が二つあった。
    栗飯の栗が顔出す炊飯器
    明月や夫婦茶碗と夫婦箸
 通常、限られた音(字)数の中で、同一文字を繰り返すことは、言葉の無駄遣いのように思えて、中々勇気がいることである。しかし上記二句は「栗」「夫婦」を繰り返すことで、逆に省略を効かせているように思う。「繰り返すことによる省略」という方法もあるということを覚えておきたい。

<以上、伊藤無迅記>

< 了 >



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