白山句会 白山句会報第15号
日時 平成26年2月22日(土)、14時半〜16時半
句会場 東洋大学白山校舎6号館4F会議室
街路には先週末に降った雪が、斑(はだら)雪となって残っている。しかし句会当日は、風もなく温かい土曜日となった。句会場の白山校舎の会議室に入ると、すでに大勢の会員が集っていた。昨年十二月の五浦忘年句会を最後に、久し振りの白山句会である。皆さん待ちかねていたのであろうか、会場に入ると何か熱気の様なものが伝わってきた。今回は先生を含めて二十一人と久し振りに二十人を超える参加があった。嬉しいことに、丹野宏美(ひろよし)さん、荒井奈津美さんの二名の方が始めて参加された。(欠席投句者は五名)
冒頭、先生から「俳話少々」というコーナーを新設したいという提案があった。先生及びベテラン会員が、句会前に輪番で簡単な俳話をするというものである。趣旨としては、俳句初心の方に句作の際に参考となるような話をベテラン俳人からしてもらうことにある。提案のきっかけは、先生がある会員から「付き過ぎの感覚がよく分からない」という質問を受けたことあるようです。会員の皆さんに、より俳句を楽しむため、簡単な俳話をしてもらい俳句の基本となる技法や鑑賞のコツを学んでもらうという考えで発案したとのことです。次いで、第一回目として、先生が準備された「俳話少々1」の説明(下記)があった。
また、句会終了後、中村こま女さん、水野ムーミンさんから、四月の句会(深大寺植物園を予定)について、想定している句会概要の説明があった。
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〈 俳 話 少 々 〉
海紅先生から以下のお話があった。 →資料「俳話少々1」
@ ベタ付け(もとは連句の言葉)とは
余情のない付句を指し、例として「殺生→鉄砲」、「盂蘭盆→卒塔婆」があり、意味上近すぎる二つの言葉を意味する。
A 俳諧に於ける芭蕉の教え
付句の全体が前句にはまることは、貞門・談林の風で、それでは余情が湧かない。切って余情を入れて変化させてゆくという指導を芭蕉がした。(蕉門の風)
B 季語があっても平句
入込に諏訪の涌湯の夕ま暮 曲水 (ひさご「木のもとに」歌仙)
中にもせいの高き山伏 翁
土芳は芭蕉の付けを絶賛、付句全体が前句にはまる(上述)のは良くないが、「はまる」ことは不可欠な条件、但したくさん説明せずに、その中心は一つに絞った方が良い。
C これを俳句に応用すると
「梅」を詠んだ例句で、良い付けと悪い付け(意味不明)の説明(詳細は省略)があった。
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〈 句 会 報 告 〉
* 一部の作品については、作者の意図をそれない範囲で、原句表現の一部を改めたものがあります。
☆ 谷地海紅 選 ☆
名園の水面ふちどり梅と雪 |
美知子 |
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母からの荷物が届くバレンタイン |
窓花 |
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ビル街の抜ける青空スキーバス |
ふみ子 |
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梅一輪心の句帖開きをり |
和子 |
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新しき友の居る句座春の風 |
喜美子 |
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初詣昭和思はす物を着る |
和子 |
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雪あれば白梅つよく匂ひけり |
瑛子 |
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午後三時洗濯物の冷えにけり |
喜美子 |
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深閑として白山校舎春を待つ |
ムーミン |
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豆腐屋の豆腐すくふ手雪しんしん |
月子 |
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早咲きのはづかしさうな梅の花 |
奈津美 |
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紅梅にくくる末吉ゆるやかに |
光江 |
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梅の香や廻り道して出勤す |
喜美子 |
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伊勢参り荷物は娘が持つと云ふ |
月子 |
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校舎よりラブミーテンダー雪解風 |
無迅 |
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残雪や行つたり来たりの冬と春 |
ひとえ |
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☆ 互選結果 ☆
7 |
豆腐屋の豆腐すくふ手雪しんしん |
月子 |
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6 |
缶けりの音の弾ける余寒かな |
光江 |
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5 |
新しき友の居る句座春の風 |
喜美子 |
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5 |
ジーンズの裾の強ばる雪解道 |
光江 |
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5 |
紅梅にくくる末吉ゆるやかに |
光江 |
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4 |
雪に裂けえだ垂れてなほ寒桜 |
松江 |
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4 |
雛人形遠い目をして寺の中(うち) |
ムーミン |
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4 |
梅の影残雪を這ひ石に乗り |
海紅 |
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3 |
梅咲くと心の奥の人に云ふ |
海紅 |
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3 |
薄氷のゆつくり解す片意地や |
うらら |
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3 |
寒締めの和紙に染み込む春の色 |
馨子 |
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3 |
みどりごの拳のごとく梅蕾む |
海紅 |
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3 |
解けきれぬ路傍の雪や一人酒 |
ふみ子 |
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3 |
初吹雪八十路なれども駿馬にて |
佳子 |
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2 |
「真央さん」の吐息ふつくら梅開く |
梨花 |
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2 |
梅蕾はじけて子等の歯の如し |
美雪 |
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2 |
山路を避けて歩いたふきのたう |
ひとえ |
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2 |
笹ゆれてこぼるる光濠に春 |
由美 |
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2 |
午後三時洗濯物の冷えにけり |
喜美子 |
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2 |
夕映えを残雪よぎる鳥の影 |
むらさき |
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2 |
大輪の冬ばらに真央おもひけり |
希望 |
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2 |
木の間越しほつと和らぐ春日かな |
馨子 |
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2 |
親の木の根にふりおちる紅椿 |
松江 |
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2 |
名残雪化粧するのは梅の花 |
奈津美 |
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2 |
雪吊の三角錘や春うらら |
美知子 |
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4 |
梅の影残雪を這ひ石に乗り |
海紅 |
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1 |
池の面に空落ち春の木立あり |
むらさき |
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1 |
紅梅のつぼみに吹雪舞ふ里よ |
佳子 |
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1 |
梅一輪心の句帖開きをり |
和子 |
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1 |
どか雪の町に田舎に牙をむき |
ムーミン |
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1 |
白梅のけふも待ち人来ぬ気なり |
うらら |
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1 |
斑雪道名を知らぬ鳥と遊びけり |
松江 |
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1 |
学びにも故山ありけり名の木の芽 |
宏美 |
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1 |
柔和なる瞳ゆきかふ梅まつり |
山茶花 |
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1 |
雪あれば白梅つよく匂ひけり |
瑛子 |
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1 |
旧機種の高さ等しく梅見客 |
宏美 |
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1 |
雪折れの紅梅の束香を放ち |
梨花 |
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1 |
春の夜のラストダンスやソチの花 |
うらら |
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1 |
玄界灘寒の卵が沈むやう |
和子 |
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1 |
梅の香や廻り道して出勤す |
喜美子 |
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1 |
星冴ゆる永遠に童女となりし祖母 |
馨子 |
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1 |
讃へたし一九の春の金メダル |
山茶花 |
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1 |
春雪の池をめぐりて小半日 |
憲 |
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1 |
校舎よりラブミーテンダー雪解風 |
無迅 |
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☆ 合評 ☆
今回は、月子さん、喜美子さん、光江さんの句に点が集りました。特に光江さんの句は総て、ベスト5に入る程の人気でした。時間の関係から、皆さんから感銘句や問題句の発表は頂くことは出来ませんでしたが、質問が二点ありました。
一点は、表現方法としての鍵括弧(例、「○○○」)使用についての質問です。先生からは、鍵括弧は原則不要ではないかとのお話があった。その理由として、鍵括弧は本来日本語表記にはなく、明治以降に散文表記の際に正確性を上げる記号として工夫されたものであること、を上げられた。このため韻文表記としては不要であると考えますというお話があった。私事で恐縮ですが、筆者の以前居た結社では鍵括弧を奨励していました。このため筆者も慣例として使っていましたが、今回の先生の話は説得力があり、その通りではないかと思います。
二点目は、清記に関するもので、清記用紙の回覧中に自分の句にミス(短冊提出後判った自分のミス)があることが分った場合、清記用紙を修正してよいか、という質問である。先生からは不可としたい、短冊を出句した時点で最後と思って欲しい。それだけに慎重に短冊を作成して欲しいとの話があった。また短冊を清記する際、明らかにミスと思っても「原句優先」を貫き、自分で勝手に修正しないようにとの話があった。
☆ 総評 ☆
最後に先生から、簡単な総論があった。
句会に於ける選は、その会派などにより様々であり、どれが良いという決まりはない。
私(先生)の属したホトトギス系の句会では、点盛りなどは割と好い加減で、むしろ「誰に採られたか」、「誰がどの句を採ったか」が重要でしたと話され、句会の点数が全ではないというお話があった。(今回も低得点の筆者には大変有難いお言葉でした)
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☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅・堀口希望・尾崎喜美子・根本梨花・大江月子・椎名美知子・小出山茶花・水野ムーミン・中村こま女・谷美雪・青柳光江・平塚ふみ子・宇田川うらら・佐藤馨子・谷地元瑛子・眞杉窓花・鈴木松江・棟方ひとえ・丹野宏美・荒井奈津美・伊藤無迅
<欠席投句者> 平岡佳子・礒部和子・西野由美・むらさき・柴田 憲 |
<以上、伊藤無迅・記>
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