日時 平成22年7月11日(日)
場所 東洋大学白山校舎3号館 (3205教室)
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― 谷地海紅選 ―
料理する主無き庭の夏野菜 |
酔朴 |
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白百合の蕾に朝日は射し入りぬ |
瑛子 |
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雨上がり濡れた家路に月涼し |
ふみ子 |
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結果待つ待合室の薄暑かな |
酔朴 |
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糠漬けの母に届ける茄子の色 |
喜美子 |
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登るほど風変はりゆく夏薊 |
さら |
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夕焼けのカンナをさらつて逃げてゆき |
良子 |
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夏草や背の伸びすぎて叱られて |
良子 |
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期日前投票すませ夏句会 |
富子 |
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日の丸に水無月の夜の大歓声
| 千寿子 |
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しよい棒に菓子ぶくろ結ぶ子の神輿 |
ゆみ |
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夏萩や鴫立庵の西行像 |
喜美子 |
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旅先のレンタサイクル夏帽子 |
巧 |
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涼風や体育座りの髪をなで |
良子 |
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紫陽花の雨を集めて籠城す |
美知子 |
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くちなしの香をひきづつて別れ道 |
美知子 |
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互選結果
料理する主無き庭の夏野菜 |
酔朴 |
3 |
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白百合の蕾に朝日は指し入りぬ |
瑛子 |
1 |
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冷ややつこ器の中で背くらべ |
かずみ |
1 |
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きらきらと夏空うつす水笑ふ |
宏通 |
1 |
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草草の々(ソウ)も墨濃き夏見舞 |
希望 |
1 |
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暮れなづむ夏至の小道の白く浮く |
月子 |
1 |
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結果待つ待合室の薄暑かな |
酔朴 |
2 |
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夢追つて梅雨ふつ飛ばす大シュート |
美雪 |
2 |
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縁日のなまり懐かし金魚売り |
光江 |
3 |
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糠漬けの母に届ける茄子の色 |
喜美子 |
1 |
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洗はれてくるくる輝き香る梅 |
由美 |
1 |
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梅雨深しまた一人増へ寡婦の会 |
巧 |
1 |
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登るほど風変はりゆく夏薊 |
さら |
2 |
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ケン玉の音弾け飛び梅雨晴れ間 |
つゆくさ |
1 |
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くちなしの香をひきづつて別れ道 |
美知子 |
3 |
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萍(ウキクサ)や傘一本の旅了る |
無迅 |
5 |
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源平の海の落暉に草矢打つ |
希望 |
2 |
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夕焼けのカンナをさらつて逃げてゆき |
良子 |
2 |
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千し草も喰まずに眠る宮崎牛 |
かずみ |
1 |
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夏草や背の伸びすぎて叱られて |
良子 |
1 |
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揚羽飛ぶ消えゆく先の鼓笛隊 |
光江 |
2 |
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キヨキヨと鳴く姿見えない影を追ひ |
弘三 |
1 |
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髪を結ふリボンうつくし花菖蒲 |
由美 |
2 |
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かみ合はぬ心ほつほつ蛍の火 |
さら |
6 |
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晩鐘の余韻の中に麦を刈る |
巧 |
3 |
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夏の夜に賢治と宇宙(ソラ)を駆け巡り |
つゆ草 |
1 |
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日の丸に水無月の夜の大歓声 |
美雪 |
1 |
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夕立に助けられたる涙顔 |
美雪 |
2 |
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はやぶさの奇跡の帰還蓮の花 |
酔朴 |
1 |
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梅雨晴を生みたる風が雨を呼ぶ |
海紅 |
1 |
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梅霖や壁にしみたる古本屋 |
光江 |
2 |
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しよい棒に菓子ぶくろ結ぶ子の神輿 |
由美 |
3 |
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旅先のレンタサイクル夏帽子 |
巧 |
1 |
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夏心荒磯の砂に埋めたり |
美智子 |
1 |
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紫陽花の明日を移ろふや今日の藍 |
憲 |
3 |
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煙草吸ふ男みな好しホトトギス |
月子 |
2 |
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梅雨空やカバンが重し身も重し |
ふみ子 |
1 |
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参加者
谷地海紅 奥山酔朴 三木つゆ草 米田かずみ 大江月子 宇田川良子 小出富子 水野千寿子 平塚ふみ子 中村美智子 菅原宏通 伊藤無迅 義野支考 吉田いろは 谷地元瑛子 小川猛 情野由希 金井巧 堀口希望 柴田憲 佐怒賀清子 谷美雪 天野さら 尾崎喜美子 椎名美知子
(欠席投句) 西野由美 尾崎弘三 青柳光江
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句 会 抄
平成八年十月、芭蕉庵近くの深川めし「みやこ」で奥の細道研究会の解散式が行われたあと、解散を惜しむ有志が集まり、平成九年四月俳文学研究会が発足した。俳文学研究会会報一号は、鈴木太郎の編集で発行された。一号は紛失したが、平成九年十月二十日発行の二号の記録がある。平成十八年に十年の歩みをまとめた『言葉は残る』が刊行された。そして平成二十二年五十八号もって終刊した。大手の出版雑誌が休刊、廃刊に追い込まれていく中、私的小紙ながらよく続いたと思う。進歩的終刊といっていい。新しい方、去る人、物故された方と会に変化はつきものである。パソコン社会に従属したくはないが、時代を乗り切る新しい波が必要で、新しく芭蕉会議「白山句会」へと形を変えた。名称が変わっても形式の無変化に失望する方がいるかもしれない。できるなら新体制には新しい編集の目があってもいいはずだが、後ろから肩を叩いてくれる後継者がいないのが実情だ。
『言葉は残る』のあとがきで「年を負うごとに時間は駆け足で進んでいく」と述べた。あれから年を負うごとに老化は確実に進み、病の併発が心配な年代となってきた。若いという言葉が残照のように思えてならない。病に老若は関係ないはずだが、少なくても身体機能の低下していく老いに病魔は容赦なく襲ってくる。
紫陽花の明日を移ろふや今日の藍 憲
紫陽花は移植すれば色が変わるという。明日のことなど誰も知らない。それでも今日限りという運命を知らず色濃く藍の色を呈している。誰の為でもない。ともすれば自分の姿態すら忘れ咲き続けているようでもある。無心の花に癒され、移ろいやすき我が身を重ねてのつぶやきだろうか。いつか聞いた話がある。腰痛が続くので整体院でマッサージをしてもらったが、快癒しないので、総合病院で診断を受けた。動脈瘤という病気で、もう少しマッサージを続けていたら破裂してもおかしくない状態だった。危ういところで命拾いした体験があればこそ詠嘆が伝わってくる。体内の危険信号の察知如何で、命を落とすか救われるかのゲーム的運は恐ろしい。
煙草吸ふ男みな好しホトトギス 月子
万病の元といわれる位百害あって一利なしの煙草である。心筋梗塞を併発した患者に医師は鬼になって禁煙を促す。しかし長年吸い続けた者は止めない、血を吐いてでも吸いたいというヘビースモーカーが肺がんを告知されたらどうだろう。酒は止められても煙草は止められないと豪語していた同僚が、検査入院で三カ月後、全身に転移しあっけなく逝った。軽い挨拶を交わしたのが最後だった。初め他の部位にあった癌が肺に来れば殆ど絶望的である。それでも懲りない喫煙家らしい。心筋梗塞で倒れ助かり、完治したと思い煙草を吸い続けたBさんは二度目の発作で帰らぬ人となった。救われた命を取り返すことのできない罰ゲームで落とす者もいる。
梅雨空やカバンが重し身も重し ふみ子
句会終了後の懇親会で話の華を咲かそうと期待したのに、句会が終わり交わす言葉なく帰っていた。普段多忙な生活に体内の危険信号を見逃したか心配だ。酷使すればある程度応えてくれるのが人体の魅力で、それ以上こなそうとすれば、機械の回路と同様狂うことがある。その時は、休養、シャットダウンで取り戻せる場合が多い。仕事が生きがいの方は幸いだ。生きがいの仕事を離れるようになったらどうするのだろう。定年になった銀行マンがいた。と同時に家族から見放された。仕事一筋の彼に残ったものは、取引先の名刺だけだった。趣味も無く、つきあいも無い。定年後効力の無い名刺を尚保有し孤独を慰めているのだろうか。名刺でトランプ遊びしているのだろうか。
はっきりしない天気が続き梅雨を詠んだ句が多かった。
夢追つて梅雨ふつ飛ばす大シュート 美雪
梅雨深しまた一人増へ寡婦の会 巧
ケン玉の音弾け飛び梅雨晴れ間 つゆ草
梅雨晴を生みたる風が雨を呼ぶ 海紅
梅霖や壁にしみたる古本屋 光江
紫陽花の雨を集めて籠城す 美知子
音、色彩、心象、形と梅雨の捉え方、感じ方も様々で、天気が人の心を浸食する力は大きい。西日本に大きな被害をもたらした豪雨が関東にも及んだなら梅雨は別の詠み方が出ていたに違いない。梅雨の晴れ間か、梅雨の真っ最中で降り続けるかのその時々の環境に左右され易いのが人でもあり、凶も大吉も天気次第に帰着するような気がする。最近の子供はケン玉の遊戯を知っているか疑問だが、縁日での風景だろうか。ケン玉の音が梅雨晴れ間の空に響いて聞こえるような爽やかさがいい。NHKフォト俳句常連入選者である作者はどんな写真を取り込むか興味深い。
たっぷりと雨を含んだ紫陽花を見ながら、時間に追われてできなかったものを、片付けようとする意気込みだろうか。鬱陶しい雨を逆利用した意気込みが伝わってくる。逆の発想で前向きにマイナスをプラス思考に変える姿勢も忘れてはいけない。 酔 朴 |
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